ウィルとフランケル3
ジェシーの葬儀当日。墓の前に立ったウィルはふとレイラに質問した。
「ねえ、母さん、一つ教えてほしいんだ」
「なんだい、ウィル?」
レイラの表情は憔悴しきっていた。無理もない。もう何日もろくに眠らず、食事もまともにしないまま、ジェシーの看病をしてきた上、愛する夫を亡くしてしまったのだから。
「母さんと父さんはどうやって出会ったの?」
ウィルはそれまで二人の馴れ初めを聞いたことはなかった。
何故かと言われれば、父と母が家庭に常にいるという、当たり前の幸せにずっと浸ってきたからだろう。
だが、父が亡くなった今、ウィルにとってはその幸せが当たり前ではなくなってしまったのだ。
そして、ようやく気付く。
いかに自分が今まで恵まれていたのかということに。
「ジェシーは昔、大学でトップクラスのバスケットボール選手だったのは知ってる?」
意外だった。ウィルはそれまで父からバスケットボールの事など微塵も耳にしたことはなかったからだ。
「いや、初めて聞いた」
レイラにとっては清々しい若かりし日の思い出だった。
「私はチアリーディング部でね。お父さんの試合に結構応援に行っていたの。お父さんは格好良くてさ。私から猛烈にアタックして、付き合ったのよ」
「でも、父さんはバスケットボールの話なんてしなかった」
「多分ね、言いにくかったんでしょう。もちろんNBAにでも行っていれば話したんでしょうけど。ジェシーは大学の時にトップクラスだったけれど、途中で膝を怪我をして、バスケットボールは辞めたのよ」
「そうだったんだね…」
「でも、ジェシーは言ってたわ。『バスケットボールを辞めるように神が導いたんだよ。レイラと結婚して、ウィルを誕生させなさいって』ってね。もちろん私は、ジェシーがバスケットボールをしていても辞めたとしても、いずれにせよ結婚して、あなたを生んだと思うけれどね」
ウィルは微笑んだ。
「父さんは幸せだったのかな?」
レイラは頷く。
「昔からジェシーは、『息子が生まれたらキャッチボールをするんだ。それが叶えばもう何もいらない』って言ってたわ。そして、3歳だったあなたとジェシーが初めてキャッチボールをした日、ジェシーはそれまでの中で一番幸せそうな笑顔で、家に帰ってきた。だから、ジェシーは幸せだったのよ」
ウィルは微かに覚えていた。
父と夕暮れの公園で何度も何度もボールをやり取りしあった事。上手く投げられずに泣いたウィルを、父がなだめ、帰り道にキャンディーを買ってくれた事。
「あの時か…。そういえば…父さんは笑ってたな」
ウィルの脳裏に若かりし頃のジェシーの笑顔が浮かぶ。
ウィルは父の墓標の前で、声を押し殺しながら、いつしか頬を流れていた涙を何度も拭っていた。




