魔球の分析
丁度その頃、ダイヤモンズ側では主要メンバーが集まっての会議が開かれていた。
「どうだ、分析班はある程度予測がついたのか?」
監督である灯明寺が質問したのは、データ分析係のリーダー、横山だった。
「いえ、ある程度、どのようなものかという仮説は立てられたのですが…」
灯明寺が指摘したのは、レッドスターズの相沢が持つあの『魔球』についてである。シーズンはまだ序盤で時間はあるが、少しでも早くその正体について真相を突き止めたかった。
それも、ダイヤモンズだけではなく、他のチームも同じようにデータ分析を進めていたが、その謎を解き明かしたとの情報はまだ入ってきてはいなかった。
「その仮説というのは?」
横山は納得のいかない表情で答える。
「これは、あくまで仮説です。ビデオを分析しても直球と同じ軌道にしか見えませんし、うちのチームの打者からの情報だけに基づいて考えて居ますので…」
灯明寺が、その回りくどい言い方に苛立ちを見せる。
「そんな事よりも、早く仮説を言ってくれないか」
声は冷静な響きだが、その裏側に隠れている不機嫌さは周囲から見てもすぐに分かった。
「わ、分かりました。それでは説明しますと、端的に言えばあのボールは『真っ直ぐに見えるフォーク』ではないかと。さらに分かりやすく言えば、直線フォークとでも言いますか」
「と、言うと?」
灯明寺は眉間にしわを寄せて、横山へとさらなる説明を促す。
「軌道は真っ直ぐですが、ボールに急激なブレーキがかかるのではと。本来のフォークであれば回転がほとんどないため、ブレーキがかかった瞬間に空気抵抗を受けて急激に落下します。ただ、直線フォークの場合はスピードが落ちても真っ直ぐに進んでいるのか、それとも減速がバッターに限りなく近い場所で起きるため、落下する前にバットに当たってしまうのか、それは不明です」
「なるほど。面白い仮説だ。打者のタイミングがずれている理由も納得できる。ただ、『落ちないフォーク』なんてものはどうすれば投げられるんだ?」
灯明寺の問いかけに横山は「そこまでは分かりません」と答えるのが精一杯だった。
「なるほど。もう少し仮説の検証が必要かもな」
灯明寺は何かを含んだような言い方で微笑みを浮かべた。




