先発提案
相沢と栃谷、鮫島の三人は球団事務所にいた森国にある訴えを行なった。
「まあ、ここまで説明した通り、何かがうまく噛み合ってないような気がするんですよ。だから、その辺をですね、分析していただけるように頼んでもらえないかと」
相沢の提案はこうだった。試合の中で違和感はあるが、何が上手くいっていないのかは今の所、分からない。だからこそ、その専門家にこれまでの試合のデータ分析をしてもらえないかと。
「頼むって誰にだ?」
森国はまだピンときていないようだった。
「開幕の時にデータ分析のノートを作ってくれた田中さんにですよ」
森国はようやく納得のいく表情を浮かべ、三人が自身のところに来た理由が分かった。
「そういう事か。ああ、分かったよ。あいつも忙しいだろうが、一度頼んでみよう」
「ありがとうございます」と頭を下げた三人はそのまま部屋を出ようとしたが、森国は相沢だけ残るようにと言った。
栃谷と鮫島が部屋を出たところで、森国は相沢に対して口を開いた。
「すまない。ちょっと別件で話したいことがあってな」
「どうかしたんですか?」
「一つ頼みたいことがあるんだが…」
「何ですか?私にできることならやれるだけの事はやりますが」
森国は胸の前で両掌を組み合わせながら考えを相沢に伝える。
「明日の三連戦最終戦だが、先発してもらうわけにはいかないか?明日だけでいい!」
森国は深く悩んだようだった。
相変わらずレッドスターズのローテーション事情は苦しく、もう一人先発投手が欲しい内情なのは間違いなかった。
本当にその考えが正しいのかは、森国には分からなかったが、そんなことは一切関係なく、相沢の答えはすでに決まっていた。
「もし自分が先発してしまえば、長い回を投げなければならず、あのボールの秘密が他チームに分析される可能性も高まります。それでも良いんですか?」
森国は押し黙ってしまった。
先々のことを考えれば相沢を先発に使うべきではない。それは明白だ。
ならばどうする?二軍から投手をもう一人引き上げるか。それとも…。
向かい合ったまま、二人はお互いに考え事を始めてしまい、しばらくその場から動くことはなかった。




