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1イニングのエース  作者: 冬野俊
挑戦への第一歩
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因縁

相沢がドアをノックすると、中から「どうぞ」と返答があった。


「失礼します」


森国はジャージ姿で何やらパソコンの画面をじっくりと眺めている最中だった。


「おお、相沢か。どうした?」


森国はようやく相沢の方を向き、そう声を掛ける。


「あ、まず、この間はすいませんでした」


森国は記憶を遡り、ようやく何の事を言っているのかを悟ったようだった。


「島根の件か。ああ、あれはもういい。二人で何をしてきたのかは知らんが、栃谷の様子を見た感じじゃあ、ただ遊びに行ってたって訳でも無さそうだしな。それで、どうしたんだ?何かあったのか?」


相沢は、森国が島根の件を本当に気にしていないことを、その表情から読み取り、安堵した。あの日、何をしていたかは森国には言っていない。


それは、森国の相沢へのある指示があったからだ。開幕前に人目のつくところでは投球をしない事。自チームの関係者の前であっても投げないようにと森国は強く言い聞かせていた。恐らく、森国の中で、相沢の投球の部分を、シーズンに入るまでは秘密にしておきたかったのだろう。


相沢は気を取り直して森国に質問する。


「実は、ちょっと気になったんですけど。栃谷君と鮫島君って、凄く仲が悪いですよね。まあ、鮫島君が一方的に栃谷君を嫌ってるって感じですけど。二人って前に何かあったんですか?」


森国は苦笑いで、「ああ、それか」と返す。


「あの二人が同期なのは相沢も知ってるよな?」


「ええ。鮫島君がドラフト1位で、栃谷君が5位でしたよね、確か」


「ああ。でもな、最初に試合で結果を残したのは栃谷だったんだ。一年目の夏から一軍に昇格。打率も良かった。鮫島の方は一年目はずっと二軍でな」


「でも、それだけで二人の仲があんなに悪くはならないと思うんですが」


森国は小さく頷く。


「逆にあの二人は入団してからも仲が良かったんだよ。栃谷が一軍に上がった時も鮫島がその年入団した選手たちに声をかけて祝ったらしいからな。だけど、そのシーズンが終わる頃だったか、栃谷が鮫島と揉めてな」


「原因は何だったんですか?」


「些細なことだ。栃谷が鮫島に突っかかったんだよ。酔った勢いで、『お前はいつまでも二軍だな』って。でも、それで鮫島がキレちゃってな。大げんかだ。表にこそ出なかったが、チームの中ではみんな知ってるよ。あの時は大変だったから。それ以来、二人の仲は悪くなった。しかも、栃谷はお母さんが亡くなってから成績も悪くなって、逆に鮫島は今やチームに欠かせない選手になった。立場が逆転したことで、仲の悪さに拍車がかかってる」


相沢は右手の指で顎をなぞる。原因は分かった。それも些細な事がきっかけの喧嘩だ。だが、鮫島の様子から考えると根は深いと思える。一筋縄では行かないかもしれない。


「そういうことだったんですね。分かりました。ありがとうございます」


相沢は納得して森国の部屋を出ようとする。すると、先ほど森国が見ていたパソコンのモニターが目に入った。


「それは?」


「ああ、これか。去年の試合の映像だ。ちょっと気になることがあってな」


「気になること…ですか?」


「ああ、まあ大したことじゃないさ。ほら、明日も練習だぞ。早く部屋に戻って休め」


相沢は森国に礼を言うと、部屋を後にした。ただ、相沢には先ほどの映像が頭から離れない。


恐らくさっき映っていたのは鮫島だろう。だが打撃の場面ではなく、守備の場面だ。しかも、ボールをキャッチしているところがクローズアップされているのではなく、鮫島が守っているところから場面もカメラも切り替わっていなかった。


相沢は妙な違和感を覚えながら自室へと戻った。

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