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1イニングのエース  作者: 冬野俊
シーズン開幕
108/171

公表

桜井のレッドスターズへの復帰が決定した翌日、広島市内のホテルで緊急記者会見が行われた。


この日まで坂之上が脳腫瘍であることについてはどのマスコミもまだ、嗅ぎ付けていなかった。それは坂之上が二軍に行くことが決まった次の日に、広報から体調不良で坂之上が検査入院をする事を予め伝えており、検査の結果が分かり次第、報道発表することを周知していたからだった。


この日、桜井の会見が開かれることもあって、森国たち首脳陣は同じタイミングで坂之上の病気についても同時に伝えることを考えていた。



会見ではまず、桜井が中央に座り、レッドスターズ復帰に向けての意気込みを述べた。


「メジャーの他球団からオファーがあったとの話もありますが…」


その報道陣からの質問に桜井は笑いながら答える。


「オファーはありましたが、やはり私は日本でプレーしたいという思いが強かった。渡米し、現地のレベルはどんなものかを体感できました。ですが、私はメジャーのチームで優勝したいわけではないと気づいたんです。私が優勝させたかったのは、他でもない、レッドスターズです」


それは桜井が坂之上に放った言葉と同じだった。報道陣たちは忙しくペンを走らせながら、次々と桜井に質問し、桜井もそれに対して丁寧に受け答えをしていった。


メジャーできちんと実績を残していた選手だ。普通ならオファーがあれば他のメジャーの球団に行く選手が多い中で、日本球界に戻ってくるという第一線の選手について、その真意を聞き出したいと記者たちも思ったのだろう。



桜井が一通り質問に答え終わると、司会者がタイミングを見計らって、会見を終わりへと向かわせた。桜井が「どうもありがとうございました。これからよろしくお願いします」と最後に告げて席を立つと、次に森国が桜井に代わって中央の席に着いた。


「突然で申し訳ありません。引き続き、皆さんにお伝えしたい事があります」


驚いたのは報道陣だった。これで終わりかと思っていた会見が森国に引き継がれ、その森国の様子も只事ではないような険しい表情だったことから、撤収の用意をしていた報道陣たちは慌てて気持ちを引き戻し、取材を続行したのだった。



「実は…実はですね、レッドスターズのエースである坂之上が…暫く病気療養することになりました」


騒つく記者席。森国は一息ついて、続ける。



「坂之上は先日に体調不良で検査を行っておりましたが、その結果が先頃、出ました。これは本人の希望ですので、病名を公表いたしますが、坂之上は………脳腫瘍との診断を受けました」


さらに騒つく記者たち。一部の記者は会社に報告を行うのか、携帯を片手に慌てて部屋を飛び出す者も居た。

森国は沈痛な面持ちで正面のテレビカメラを見据える。


「おそらく、近いうちに手術を行う事になると思います。ただ、そんなに簡単な病気ではないことは、ご覧になっている全国の皆様にもご理解いただけていると思います」



森国の声は次第に強みを帯びてくる。いつの間にか森国の目には涙がうっすらと滲んでいた。


「皆さんにお願いがあります。私達は坂之上が必ず戻ってくると信じて今シーズンを戦います。だから、皆さんも病気と闘う坂之上を、どんな形でも良い、応援してやってくださいませんか? 私達のチームの応援はしなくても構いません。レッドスターズのファンの方も、他のチームのファンの方も、『一人のプロ野球ファン』として、坂之上を応援してくださいませんか?よろしくお願いします」


席から立ち深々と頭を下げた森国は、カメラに向かいもう一言付け加えた。


「坂之上、聞いてるか?俺たちはお前の復帰を待ってる。もし、今シーズンに間に合わなくても、俺たちがお前を優勝旅行に必ず連れていってやる。だから…だから、病気に負けるなよ」


その映像を病院のベッドの上で見ていた坂之上は、溢れ出る涙を止められないでいた。



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