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朝の光 メロディーを熊たちと 5

ゆっくりと太陽は沈んでゆく途中で、辺りを茜色に染め始め

物哀しい空気で学校という一つの完結した世界を包もうとしていた。


ゆりあと美奈香は光の欠片たちを拾い集めて

翔と熊五郎はほうきと塵取りでガラスの細かい破片を取り除く。

「あぶねぇよな~~」

翔が唇をとがらせてふくれる。

陽介が生徒会室のドアを開けて入ってきた。

「あったか?」

熊が振り向いて聞くと

「ほらね」

陽介の手には掃除機が握られていた。

熊が受け取るとスイッチを入れて床掃除を始めた。

「わ~~い、やっと安心して座れるよね~」

美奈香がピョンピョン飛び跳ねるのを

呆れ顔で眺めながら翔。

「おまえ、床に座るからなぁ~女子とは思えねぇ~」

翔の隣に立っていた陽介がぺこりと頭を下げた。

「先生、びっくりさせてすみません」

ゆりあは手を振った。

「何言ってるの?あなたたちのせいじゃないでしょう?」


生徒会長らしからぬ笹塚熊五郎。

ピンクの唇から八重歯を出して笑う美奈香は副会長で、

いつも派手なティーシャツの書記、高松翔。

ちゃんとしてるのは彼だけかなと思わせる前生徒会長で今の書記をやっている新城陽介。

メガネをかけたサラサラヘアーのイケメンだ。

普通の生徒会だとは思えないな、とゆりあは思った。

そして、彼らに嬉しそうにくっついている先生は須田。

ゆりあの同級生。そしてこの学校に来たきっかけになった人物だ。


熊が頭をかきながら渋い顔で下唇を噛みながら、ゆりあの顔を見ると

「それが、そうでもないんっすよね」

困った表情が大人っぽいな。

ゆりあは、取り消すように頭を振った。

熊五郎は手の中にある白いものを机の上に置いた。

それは石が包まれていた紙で

熊が手でしごいて広げると何か書いてあるのがわかった。

『音楽コンクールなんてやめろ!やめないと涼風先生が傷つく事になる』

乗り出して読んでいた美奈香が悲鳴をあげた。

「やぁ~~だぁ~~!ゆりゆりになんかあったらだ~~~め~~~~~~」

握り拳を作って机をたたく。


わたし?なんで、わたし?

やめろって、誰がやめたいのかしら?別に強制じゃないし。

ゆりあが腕を組んで考えていると

「生徒じゃないでしょうね。別にやりたくなければやらなくても良い訳だし」

陽介がふぅっとため息を吐きながら宙を見つめる。

投げられた石でできた穴が窓にぽっかり空いていて

そこから風が入ってきて陽介の髪をゆらす。


陽介がもう一度話始めた。

「さっき校舎で聞き込みしたんだけど、知らない生徒が二人裏庭の方から出て行ったらしいんだ。

もちろん、知ってる顔じゃなかった」

熊が立ち上がってゆりあを見下ろすと

「先生、当分気を付けてください。行き帰りとか」

だから、なんでそんなに高いところからわたしに物言うのかな?


「ま、まあ、気を付けるけど、目的はなんなのかしらね。どうしたいのかしら」

なんとなく、不気味な気はするけど。

「美奈香、ゆりゆりと一緒に帰る!

なんかあったら、けちょんけちょんのギッタギッタのボッコボッコにしてやぁ~る~」

美奈香の瞳は怒りに揺れている。

ゆりあの手をぎゅっと握りしめて離さない美奈香は手まで熱かった。

「だけど、中止しろっていう訳じゃん?なんとかしないと、やばくね?」

翔が両手を上げて、お手上げのポーズ。


「わかった!とりあえず、明日集会開くぞ!」

熊が両手でパンと机をたたいた。

ああ、校長に今日の事なんて説明しようかしら。

しかも、こんな脅迫めいた手紙付だなんてね、まいったな。

ゆりあは重い頭を握りしめた手で叩いてみたけれど、

頭痛の種はずっしりと覆いかぶさるようで

一向に解決するとも思えなかった。


それでも、美奈香の暖かい手で握られている自分の手をみると嬉しくなり

「ありがとうね」

安心している自分がいるのは確かな事だった。

美奈香が目をうるませて

「いいんだよ~ゆりゆり。大好きなゆりゆりになんかあったら美奈香生きて行けないも~ん!」

なんで、この子はこんなにわたしの事気に入ってるんだっけな。

それでもゆりあは今、この手を放したくないと痛切に感じている。

「オレらも、護衛しますんで」

熊五郎がそう言うとドギマギして、そんな自分に驚いて

「そ、そんな。大丈夫よ、きっと」


なんだ、わたしは!教師だぞ!今までそう思ったことあんまりないけどさ。

しっかりしなくちゃいけないんだという事だけは

わかったし、自分でそう感じている。

不思議な気持ちでゆりあは、穴の空いたガラス窓から見える校庭を眺めた。

そうか、わたしは教師でこの子たちは生徒なんだ。

あまり実感として感じた事が、あったようななかったような。

思い出そうとしても思い出せない何かが、ゆりあの思考を止めている。

夕日がもうすぐ、さよならを言う時間だ。


校庭は、もう誰もいない。

ゆっくりと違う場所へと移動しているみたい。

ふと、ゆりあはそんなことを考えていた。





次回2月17日アップします。

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