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朝の光 メロディーを熊たちと 4

「なんだか、校内がやかましいですね!」

副校長が、ゆりあに向かってつぶやいた。

「まあ、学校行事があった方がそれなりに、生徒も荒れないんじゃないですかね」

ゆりあの言葉に、渋い表情を作った。


ゆりあがとりあえず、学校の先生として

この中学に来て初めて出会った生徒は、ゆがんでいた。

中学生という枠からはみ出た生徒たちだった事が頭の片隅をよぎる。

『生徒のことは、大根やかぼちゃだと思ってください』

当時の副校長の声が蘇った。

授業らしい授業をすることは要求されなかったのだ。

須田くんは、露骨に嫌な顔を作って言ってたっけ。

「僕は、教師としてこの学校に来たって言うのに!」

見た目からは想像できない物言いに、内心から怒りが噴き出していたように感じた。



それに比べて、今目の前で歌を歌ったり踊りを踊ったりする生徒たちは

普通の子どもたちだと思ったし、それが本当の姿だなと感じた。

「先生さぁ、どんな歌とか踊りとかに評価すんの?」

ゆりあの頭のずっと上の方から、声がした。

見上げると熊五郎だ。

右頬の唇の端を引き上げて不敵な微笑みで、ゆりあを見下ろしている。

びくっと自分の肩が縮こまるのを感じながら

「笹塚くん、お願いだから突然上の方から質問しないでちょうだい」

悲鳴にも似た声が出た。

「な~に、びびってんの?せんせ~」

高松翔は派手な黄色のティーシャツを着ている。

「あなた、いつも思うけど派手じゃない?それ」

「そう?だ~れもそんな事いわねぇ~ぁ。なんで?」

自分のティーシャツの裾を引っ張ってしげしげと眺めている。

「センスの問題ジャン!ゆりゆり~、美奈香は今日は馬のシッポだよ?かわいいでしょ?」

自分の頭の天辺に揺れるポニーテールの少しオレンジ色の髪の毛をもてあそびながら

美奈香が、ゆりあの腕に絡みついてくる。

いつもながらの、馴れ馴れしさだ。

「それで、あなたたちは練習してるの?ここで」

生徒会室は、なんだか赤や黄色の紙の花で飾られている。

中には、いつも通り新城陽介が本に向かっている。

落ち着いた横顔。

いつもながら大人っぽいわね。


ゆりあがそう思って生徒会室に一歩踏み出したその時。

ガチャーン

窓ガラスの割れる音がした。

陽介がとっさに頭を腕でカバーする。

教室の空中をキラキラした破片が太陽の光を受けて輝く。

熊五郎がゆりあの腕を掴んで廊下に引っ張り出す。

「ぎゃあぁ~」

「うへ~まじ~」

美奈香と翔がしゃがみこんで頭を抱えている。

キラキラした光の欠片たちは

スローモーションでそこらじゅうの床に着地したように見える。

ガラスの破片の真ん中に白い塊が落ちている。床には太陽の光がきらめいて綺麗だ。

熊五郎が白い塊を拾い上げて、窓際に走る。

すでに窓のカーテンの陰に陽介が外を見ている。

「だれだ?」

「たぶん、二人。校舎の中に逃げて行った。上背のあるやつだ。なんとなくここの生徒じゃないかもしれない気がする」

「ゆりゆり~怖かったね~大丈夫?」

美奈香が廊下に引っ張り出されたゆりあの顔を覗きに来る。

なに?なにが起こったの?

ゆりあの頭の片隅で、音が響いた。

ガラスの割れる音、もう聞きたくないのに。聞かなくてもいいって思ってたのに。

ゆりあの手が震えている。

どこかが刺激されて胸が苦しい。

それを見た美奈香が飛びついた。

「大丈夫だよ~、美奈香が守ってあげるからさぁ~」

不覚にも人の温もりがゆりあの心を鎮めているのを感じると

「だ、大丈夫よ、わたしは先生なんだから」

ハグされて落ち着くなんて、ちょっと情けないかなぁ、わたしったら。

ガラスの割れた音と一緒に壊されていく音が頭の片隅から流れ出て

ゆりあは逃れるように頭を振った。

頭が痛くなる。

ここのところ落ち着いていた頭痛が、始まりそうで怖くなる。

「だいじょう~~ぶ!大丈夫!ゆ~りゆ~り!おちついて~~」

美奈香がゆりあに声をかける。

生徒に励まされるなんて、情けないな。

ゆりあは深呼吸をして、顔を上げた。

大丈夫、わたしは大丈夫。

おまじないのように、自分に言い聞かせた。

近くにある美奈香と熊五郎の顔を見ると、少し安心した。





次回2月14日アップします。

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