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朝の光 メロディーを熊たちと 18

夕暮れの道は、なんだか狭くて暗い。


ゆりあは暗い道を歩きながら考えていた。

わたしはずるいな。

事実に向き合う勇気がなかったなんて。

それがどんな事だろうと真実を知らなくちゃいけないし

そして何かあったのならあったで周りの人たちの痛みを知らなくちゃいけない。

そこから逃げていては、前に進む事なんかできないのに。


「ゆりゆり~~、くらくなっちゃったね~~」

ゆりあのすぐ横から美奈香の声が聞こえた。

美奈香が隣に歩いているのを忘れていたゆりあは、少し驚いた。

「そ、そうね、自分の事ずるいなって思って」

つい、本音が言葉になってこぼれ落ちた。

すぐ後ろから高松翔が、声だかに

「しゃ~~ない、しゃ~ない!先生だって女の子だって事っしょ!」

やっぱり後ろから新城陽介が

「目の前でショッキングな事が起きたのだから、かなり応えて当然だと思いますよ」

そして、かなり後ろの方から熊五郎の声が聞こえた。

「大丈夫大丈夫!ここから変わればいいって事ですよ!それより、オレ腹減ったわ」

美奈香がきゃあ~と言って飛び跳ねた。

「美奈香ん家って、来々軒出前とれるよ~~」

熊がすぐに声を上げた。

「お、それいいね!」

翔が早足になって、ゆりあの横に現れた。

「決まり!夕飯は美奈香んちで来々軒のラーメンだ!」

「良い案だね、もうすぐそこですよ」

ゆりあは、陽介の言葉に本気なんだと思うと

あたふたした。

「美奈香ちゃんのおうちの人に迷惑でしょう?」

どんな顔して両親の目の前でラーメンをすすればいいのだろう?

由芽香ちゃんが元気になるまで、なんの音沙汰も無かったことを

なんと言い訳したらいいか、まだ考えついていないのに。

「大丈夫だよ~~、パパもママも今日は遅くなるも~~ん」

「え?」

思わず声をあげたゆりあ。

両親になんと言い訳しようかずっと緊張していた身体が、少し緩んだ。

「せんせぇ、緊張とかしてた訳ね?」

熊五郎が翔の隣に現れた。

「だ、だって、わたしは一度もお宅に伺ったことがなかったんだし」

そうだ、わたしはあの頃外に出ることができなくなっていた。

心のどこかが壊れていたのかもしれない。

今ゆりあは、ようやくあの頃の自分の状態を冷静に思い返す事が

できたような気がしていた。

今となっては、はたして自分はどうすべきなのか。

そして由芽香ちゃんに会ったらなんと言えばいいのか。

考えるだけで、この場から逃げ出したくなってくる。


夕闇に明るく照らされて美奈香の家が見えてきた。

白い壁にこの辺の住宅からすると広い庭が見える。

「せんせい!」

家から出てきた影が大きく手を振って

声を上げた。

懐かしいその声は

ゆりあのどこか遠い昔を叩いた。

胸の扉が開けられて

頬から涙がこぼれ落ちてゆく。

どうしたらいいのかわからないくらい

ゆりあの胸が締め付けられる。

わたしは心の扉を長い間

閉じていたんだ。

初めて自分が過去の自分に蓋をして

生きてきたことに気付いた気がした。


懐かしい愛すべき教え子の顔が笑っていた。

黒い大きな瞳。意思の強そうな眼差し。

妹より少し小柄で華奢な女の子。

力強く手を振っている。

身体全体で、元気をアピールして

ゆりあを許すと叫んでいるようだ。

わたしは、何から話そう。

ゆりあは涙を拭かずに、まっすぐ由芽香を見つめた。

あなたの顔を見られてこんなに幸せに思った事、なかった。

そう、言おう。

ゆりあは、気が付いたら駆け出していた。

手の降る元気な女の子のもとへ。







次回4月3日、アップします。

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