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朝の光 メロディーを熊たちと 17

ゆりあは瞼を閉じて息を大きく吸い込んだ。

忘れようと頭の違う場所にあった記憶を思い起こしていた。


飛び散ったギターの破片がいくつか由芽香の頭を傷つけていた。

耳元で大きな音とともに、バリバリと何かが砕け散った。

怖くて固く瞼を閉じて、身体中をこわばらせた。

そっと目を開けると、飛び散った破片の中にゆっくりと

身体をピアノにもたれながら、由芽香が倒れてゆく。

額にも、覆った手の甲にも破片が突き刺さり、傷つけた跡が見られた。

頭部から顔に流れてゆくものが何なのか、ゆりあにはわからなかった。

それが彼女の血液だと認識したのは

自分の叫び声に驚いての事だった。

まるで、自分が二つに裂けて別れたように感じる。

怖くて大きな声をあげているゆりあ。

そして、ゆっくりと状況を把握しようとしている自分。



染谷くんが振り下ろしたギターは

とっさにゆりあを避けてピアノの角に振り下ろされた。

そして、ゆりあが目をつぶった時に由芽香がかばって

前に飛び出したのだ。

ギターは直接由芽香に当たりはしなかった。

けれど、ピアノに振り下ろされたギターから

凶器はそばにいた由芽香を直撃したのだ。

「なんで?」

誰も動く事ができなかった。しばらく呆然としていた。

そして、怪我一つしていないゆりあは記憶が遠のいてゆく。

あふれる真っ赤に流れる血液に染まる教え子の姿が

かすんで見えなくなっていった。

遠くの方に救急車の音が聞こえたような気もする。


わたしはどこか傷ついたのだろうか。

怪我一つ無かった。

それがどうしても許せなかった。

目が覚めてもまたすぐに闇の中に落ちてゆく毎日。

彼女はどうなったのだろう。

大丈夫だったのかしら。

何かあったらわたしはどうしたらいい?

なにも答えが見つからないまま、ゆりあは家から一歩も外に出なかった。

怖くて怖くて震えて眠った。

そうして、大事な教え子はいなくなったと噂にきく。

それがどんな意味なのか考えたくなかったし

考えなかった。

保健室の先生が訪れるようになり

少しずつゆりあは、戻って行った。

それでも、事件の事を誰も話さなかったし

自分から聞く事もなかった。


「そうね、噂は聞いたわ。わたしは耳をおおっていた、ずるいわね」

美奈香が話始める。

「お姉ちゃんは、何とかっていう場所が傷ついちゃって、歩けなかったんだぁ」

熊がふふんと鼻をならして美奈香をみる。

「でも。死んだって言ったのはお前なんだろ?」

ほっぺたを膨らませて美奈香が熊五郎をにらみつける。

「だってだって、みんながどうなったどうしたってうるさかったんだも~ん」

「じゃさ、おまえが死んじゃったって言ったから噂流れたんじゃね?」

高松翔が美奈香を指さした。

「うるさ~~い!お姉ちゃんは誰にも言わないでっていうんだも~ん!」

新城陽介が笑う。

「死んじゃったって言えば、誰も気の毒に思って聞いてこないって事ですかね、さすがです!」

大きくうなずく美奈香は

「そうそう、誰も聞いてこなくなったよ!お姉ちゃんとの約束も守れたってことね~~~」

熊も翔も陽介も笑い出した。

「ちげ~~ね~~」

「すげ~~」

「知能犯と言うべきでしょうかね」


意味がわからない顔をして立っている染谷くんと南里くん。そして、ゆりあ。

染谷くんが美奈香の肩をつかんで、ゆすった。

「あいつ、ほんとに死んでないんだな!」

髪の毛がゆさゆさと揺れて、不快な顔をした美奈香が

「ほんとだよ!はなしてよぉ~~」

染谷くんをゆりあが手で押しのけて、美奈香の顔を覗き込んだ。

「美奈香ちゃん、お姉さんは今どうしているの?」

「お姉ちゃん、リハビリ頑張ったから、おじさんちから帰ってきてるよ」

美奈香の後ろから陽介が言葉をかけた。

「美奈香のおじさんの家は、大きな病院を経営してますから」

陽介の顔と美奈香の顔を見比べながら

「由芽香ちゃんは元気なの?その、どこか、」

ゆりあが言葉を濁すと熊五郎が肩を叩いた。

「陽介が話ししたらしいっすよ。な?」

それを聞いて美奈香が大きな口を開けた。

「はぁ~~?陽介いつお姉ちゃんとはなしたのよ~~~」

まあまあ、と手をふって陽介。

「先日家に帰る時、近くに車が止まったでしょう?」

「あ、お姉ちゃんが帰って来た日だぁ~~、かくしてたなぁ~~ずる!」

「そうそう、みんなと別れたすぐ後に、もう一度近くまで行ってみた訳、で」

熊五郎が笑った。

「あ、オレも一緒。近くで見てた!」

高松翔が口をあんぐりと開けた。

「ひでぇ~、おれ、ラーメン屋先に行った時だ!」



次回3月30日、アップします。

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