朝の光 メロディーを熊たちと 16
「みんな、こんなところにいたんですか~~」
気弱そうな声が舞台袖から聞こえてくる。
「須田せんせ、じゃね?ど~こ行ってたんだか?」
高松翔が舞台そでに迎えに行く。
「先生、涼風先生無事だって伝えてくれました?」
熊五郎が、聞くとそれに答えて
「ああ、涼風先生は頭痛くなって、帰りましたって伝えたよ」
熊が親指を立てて笑う。
「オーケー!」
翔がふくれっ面になって
「オレらが、校内探してる間に何たくらんでんの~?くまちゃ~ん」
熊五郎がウィンクした。
「わりぃ!陽介が調べたから、急きょ、な」
「いろいろと、わかった事があったんでね。時間もなかったし」
陽介がメガネに手をかけると
ポケットからハンカチを取り出し拭いた。
「さ~て、もう一度質問しましょうか」
再び、陽介が美奈香の顔を見つめて言う。
「なぜ、お姉さんが亡くなったと言ったんでしょうか?」
美奈香らしくない顔をして斜め上を見つめる。
どういうことなのかしら、なぜ?
ゆりあは陽介の質問を不思議に思って、隣の美奈香の肩を優しく掴んで
「美奈香ちゃん、お姉さんは亡くなったのね?わたしはそれさえはっきりと聞かずに来てしまったわ」
ゆりあは、事件の件に誰も触れなかったのを良しとして
なるべく考えないように生きてきた。
怖かったんだわ、由芽香ちゃんが亡くなったって聞くのも、考えるのも。
そして、どうなったのか知る事さえも。
わたしが弱虫だったから、染谷くんも南里くんも
こんな事になったに違いないわ。
そう考えると、全部が自分のせいだと思えて苦しくなる。
「ごめんね、ごめんなさい。あなたのお姉さんを奪ってしまった」
頬から涙がこぼれた。
事件から凍りついた記憶が溶けだすように、
由芽香の愛らしい笑顔が次々に思い出された。
記憶の片隅に追いやっていた暖かい思い出が現れては消える。
「ゆりゆり、泣いてるの?」
美奈香が驚いた顔になる。
「ゆりゆり、泣かないでいいよ~~、お姉ちゃん死んでないもん!」
言ってから、はっとして口を手でおおった。
高松翔が大きな声を出した。
「はぁ~~~?死んでないの~~?」
染谷くんと南里くんが顔を見合わせている。
「おまえ、意外と口かたいんだなぁ!感心感心!」
熊が美奈香の頭を、ぐりぐりなでる。
「やめてよ~~~、くまちゃん!髪型壊れちゃうじゃぁ~ん」
ゆりあが美奈香の顔を覗き込んで
「由芽香ちゃんは、亡くなっていないのね?」
髪の毛を何度も手櫛で撫でながら
「そうだよ~~、お姉ちゃんは元気だよ~~」
両手でたてロールをくるくる指に絡ませながら
「でもさ、障害?残っちゃったからさ、お姉ちゃん知られたくないって言うもんだから~~」
障害?そうだ、頭から血を流して倒れた由芽香ちゃんだもの。
当たり前に何もない方が不思議だ。
そう思うとゆりあは、また泣きなくなってきた。
「や~~だ~~~、ゆりゆり、また泣きそうじゃ~~ん」
どうして、お姉さんを傷つけたわたしをこの子は想ってくれるのかしら。
ゆりあの頬に涙が流れ落ちるのを見て、美奈香が話始めた。
校舎は、ここだけ取り残されたようにポッカリと明るい。
次回3月27日にアップします。