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朝の光 メロディーを熊たちと 15

「いやぁ怖い思いしたね」

笹塚熊五郎がゆりあの上の方からつぶやいた。

優しさを感じた。

新城陽介がゆりあに起こった事件の全容をかいつまんで話すと

染谷くんがうなだれた。

「あんなことになるなんて、オレ後悔しても後悔しても」

南里くんも表情を暗くして下を向く。

「僕だって、同罪だよ」

高松翔が肩をあげてわからないというポーズで

「じゃなんでこんな事するんっすか?せんぱ~い」

二人は黙って下を向く。何も言えなくなる。

「ねぇねぇ~かえろうよ~~~ここ、こわいよぉ~~」

美奈香がゆりあの手を取って歩こうとした。

「わたしが悪いのよ。二人ともあのままなんとか事件にはならなかったけど」

ゆりあの言葉を遮って染谷くんが強い口調で言った。

「でも、あいつ死んじゃったんだよ!オレがやったんだ!」

ゆりあの脳裏に頬を赤く染め、額から血を流した女子の顔が浮かんだ。

あの後、わたしは一か月くらい自宅からショックのあまり出る事ができなかったんだ。

そして、仕事に復帰したけれど事件の事は誰も口にしなかった。

だから、彼らがどうなったのか何も知らされていない。

怖くて自分から口を開くことをためらった。

今は、自分の事を情けなく思うしどうしてと言う後悔もある。

ただ、あの時点で何もすることができなかったのは事実だった。

そして、時間が過ぎて行ったのだ。


「みなさん、本当にいろいろと事実を知らないようなので」

陽介がメガネを指で押し上げながら

そこにいるみんなを見回すと

「まず、当時事件で亡くなったという由芽香さんの事ですが」

染谷くんと南里くんが頭を抱えた。

「彼女が誰だか知ってますか?それと、亡くなったと言ったのはどなたなのか?」

二人が何の事だという表情で顔を上げる。

「陽介、さっさと話せよ!もう暗くなってきたから」

熊五郎が促す。

ゆりあも一体陽介がこれから何を言おうとしているのかと

顔をあげて見つめた。

その時、

「は~~~い!は~~~い!」

美奈香が手を上げて飛び跳ねた。

肩のところでポヨンポヨンとたてロールが揺れる。

「はぁ~~?美奈香うるさいんじゃね?今、いいとこなんだしさぁ~」

翔が指を美奈香の目の前で振りながら、チッチッと舌打ちをする。

「は~~~い、ってゆりゆりでいいや!さしてさしてぇ~~」

こんな時にもこの子は屈託なく無邪気なんだわ、いいんだか悪いんだか。

そう思いながら、ゆりあは仕方なく

「はい、美奈香ちゃん!早くしてね」

と言うと美奈香が目をキラキラさせて話し出した。

「その時の、女子生徒ってわたしのおねえちゃんで~~~す!」

その場にいた全員が美奈香を見つめる。

翔が口を開けて

「はぁ~~そう言えば、みなかのねぇちゃんって死んじゃったって言ってたんじゃね?たしか」

感心しているのかいないのか、翔はうんうんと頷いた。

陽介がにっこりと笑いながらメガネを押し上げて

「お姉さんが亡くなったと言ったのは、美奈香さんですよね?」

激しく首を縦に振りながら

「そうだよ~~、お姉ちゃんったら、病院で手術室入ったっきり出てこなかったも~~ん」

ピョンピョン、飛び跳ねる。

「なんで、そんな悲しい事嬉しそうに言えんの?」

翔が呆れた顔でつぶやく。

陽介が美奈香に顔を向ける。

「亡くなったと言ったのは、なぜでしょう?」

とたんに、美奈香がきゅっと口元を結んで黙った。

「さっさと話しなよ!暗くなってるって!」

熊が美奈香の頭をポンポンと叩く。


ゆりあの記憶の中で由芽香の笑顔が、美奈香の笑った顔と重なる。

ああ、本当だわ、姉妹なのね。

まじめな由芽香ちゃん、楽観的な美奈香ちゃん、

性格は全く違うような二人だから気がつかなかったけど。

似ている。

改めて、ゆりあはなんで気がつかなかったのかと思う。


「美奈香、話さないって約束したから話さない!」

美奈香にしては、硬い表情を作っている。

「めっずらしぃ~~!美奈香らしくないんじゃね?似合わねぇ~~!」

翔が顔を覗き込んだ。


初めて知る事実に、苦しい顔をして染谷くんと南里くんは

「ごめんなさい」

「すみませんでした」

そう言って美奈香に頭を下げた。


舞台の端から走って来る足音が聞こえてきた。






次回3月23日アップします。

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