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朝の光 メロディーを熊たちと 14

「まあ、それは涼風先生が一番良くご存じでしょうから」

新城陽介がうやうやしく、ゆりあの胸のあたりに手を差し伸べた。

「彼らは、悪い子じゃないのよ」

脳裏に去年の冬の出来事が生々しくよみがえってくる。

わたしは、この子たちから逃げてばかりいたのかもしれない。

もっと早くちゃんと話をしなくちゃいけなかったのかもしれない。


染谷くんと南里くん、そして由芽香。

荒れていた学校、悪いトップの男子と同じクラスの三人。

染谷くんも南里くんも悪いグループに度々誘われていた。

本当は、そんな気もない二人だったけど逆らう事は出来なかった。

先生だもの、生徒を指導しなくちゃ。

少しだけど、そんな野心はあった。

先生になって初めてなついてくれた女子生徒は

放課後何度もゆりあのいる音楽室に訪れた。

笑いあう中、夏休み明け

由芽香は新任のゆりあに音楽クラブの演奏発表がしたいと語った。

まだ、先生という地位は揺るがないものだと疑っていなかったあの頃。

ゆりあは、最近顔を出さなくなった染谷くんと南里くんを誘った。


秋が過ぎ、寒い冬になる頃。

少しずつ発表演奏が現実味を帯びてきたと感じ始めた。

そんな仲間意識が強くなっていく中

あの事件がおこったのだ。

「悪い連中の事なんか無視しても大丈夫よ」

「音楽なんて今しかできないんだから」

「絶対後悔なんかしないわ」

染谷くんも南里くんも、気持ちが揺れているのはわかっていた。

悪い連中のトップとはいえ、中学生なのだから

何かあったらわたしが彼らの前に出て行って、かばえばいいんだ。

いくらカボチャやニンジンだと思っていても相手は子ども。

ゆりあは、短絡的にそう思っていた。

ゆりあの中で先生とは、それほど大きな存在だと信じていたのだから。


あの日、放課後ギターを奏でた三人とピアノを弾くゆりあの目の前。

連中を従えてトップの男子が音楽室の扉を開けた。

「おめぇら!なに、チャラチャラやってんだよ!」

「なに無視してもいいとか思ってんだ?」

「先公にシッポ振ってついて行くんじゃねぇよ!」

まくしたてた男子は切れ長の怖そうな目をゆりあに向けた。

「テメェー、うざいんだよ!」

ゾクっと寒気がしたけれど、ゆりあは自分を奮い立たせて

「彼らは練習して発表演奏しようとしているの。邪魔はしないでちょうだい!」

今、思い出しても背筋が寒くなる。

その時、何かがはじけたような空気が流れた。

「染谷!こいつボコって!ほれ!手に持ってんじゃん、凶器」

染谷くんのギターを指さして、あごをあげた。

後の連中が声を上げる。

「や~れ!や~れ!」

「い~け!い~け!」

黙って立っている染谷くんに

「お前が行かないんなら、代わりにオレら行ってもいいけど?」

そう言ってそばにあった椅子に手をかけた。

すぐに染谷くんが目をつぶって、震える手でギターを振り上げた。

そして、ギターがゆりあの頭を突き抜ける、そう思った瞬間だった。

物凄い音がして、ギターのネックが折れ曲がり、破壊されたギターの切れ端がピアノに飛び散る。

ゆりあの横のピアノに振り下ろされていた、染谷くんの握りしめたギター。

背けた顔をおそるおそる染谷くんの方に向けると、ギターの破片が頭に刺さって

真っ赤な鮮血を流している由芽香がいた。

かばってゆりあの前に立ちはだかったのだろう。

「だめだよ染谷、他の先生は私たちの話なんて誰も聞いてくれなかったじゃん」

そう呟いて、由芽香はゆっくり倒れてゆく。

「きゃ~」

ゆりあの記憶はそこで、途切れている。

気がついたのは保健室のベッドの上だったから、そのまま倒れたのだろう。





次回、3月20日アップします。

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