朝の光 メロディーを熊たちと 13
新城陽介はふっと笑顔になって
涼風ゆりあの顔を見ながら
あごに手を当てた。
小さな体育館の脇の部屋は
そこだけ切り取られたように明かりに照らされている。
「ねぇ~~、みなか、何だかこんなとこにいるのやだぁあ~」
ゆりあは手を握りしめて肩を震わせて
小さくなっている美奈香の肩を抱き寄せた。
「どうやって、張られているガムテープを剥がしたんですか?先生」
陽介がメガネを押し上げて聞く。
「そ、それは、剥がされたのよ。痛かったわ」
もう少し広角を上げて笑いながら陽介
「どうして、一回貼ったテープを剥がしたんでしょうか?」
「それは大変なことをしたと思って後悔したんだと思うわ、きっと」
「なぜ、後悔したんでしょう?」
「そんなに悪い子たちじゃなかったのよ、たぶん」
陽介が白い歯を見せた。
「悪い子?大人じゃないんですね?」
「な、なんとなくそんな気がしたんだけど、大人だったかもしれないわね」
陽介が顔を近づけてゆりあの目を覗き込んだ。
「大人、なんですか?」
「ええ、大人だったわ。大人二人組よ。怖かったわ」
突然、美奈香がゆりあの腕にしがみついた。
「ゆりゆり、かわいそう~~、でも混乱してるよ~~わけわかんない事いってるもん~~」
陽介は美奈香を眺めながら、ゆっくり頷いた。
「さて、もうそろそろですかね!」
体育館のステージの方を振り返った。
「よう!遅くなったな!」
笹塚熊五郎が立っていた。
背の高い熊のシルエットの両脇に二つの影を従えている。
「あ」
ゆりあが声を上げた。
一人は片腕を背中側に押し上げられて
もう一人は頭を小脇に抱えられて
二人ともヒィヒィ声にならない声をあげている。
「もういいでしょう、話を聞かせてください先輩」
陽介が熊五郎を見ると
「だな」
熊は二人を離した。
小柄な高校生くらいの男子だった。
「涼風先生の教え子でしょ?」
熊がゆりあを見て顔を上げた。
何も答えられないでいるゆりあに
「テニスコート脇に張ってたら、向こうから飛び込んで来たんっすよ」
熊の言葉に美奈香が手を叩いた。
「あ、な~るほ~ど!抜け道あるって言ってたもんね~~、さっすがくまちゃん!」
「そりゃ、先輩に決まってんじゃね?あんなとこわかんねぇもんな」
翔が感心してつぶやく。
「でも、なんでこんな事した訳?」
次回3月16にち、アップします。