朝の光 メロディーを熊たちと 12
「涼風先生!」
縛られた両手をなんとかほどこうと
悪戦苦闘しているゆりあの目の前に高松翔の姿が現れたのは、
ゆりあが声を上げて間もない頃だった。
薄暗がりが広がって、
小さな体育館の道具部屋は闇に近い。
ほとんどの生徒が近寄らない部屋だ。
体育館の舞台裏に用具を置く部屋があって
そこから三段くらい階段を上がったところにある部屋。
ほとんど使われていない、壊れた用具や楽器などをとりあえず
置いておく部屋だ。
ゆりあは、この空気の淀んだ小部屋に転がっていた。
「だいじょーぶ?ゆりゆり!」
後からおそるおそる入ってきた美奈香が、その姿を
見つけてかけよって声を上げた。
「うん、大丈夫よ、なんでもないわ」
つい、そう答えた。
「何でもない訳ないじゃん!ゆりゆり、おこっていいってばぁ~~~!」
いつになく、声に力が入って怒りモード全開の美奈香。
足を縛ってあったハチマキをほどくと
「もうぅ~~~、ゆりゆりに何かあったらどうしようかと思ったんだからぁ~~」
ぐすぐすと鼻を鳴らしている。
「あれ、おまえ泣いてんじゃね?」
翔がきつく縛ってあった手のハチマキをようやくほどくと
階段を降りて用具室の明かりをつけた。
「あれあれ、せんせ!口もと赤いけど、ヤバい感じ?」
ガムテープを張られていたからだろう、ゆりあは口元からあごにかけて
ざらついて肌が荒れているのを確かめた。
ひりひりする。
「ふぇ~~、ゆりゆり、可愛い顔が台無しだよぉ~はれちゃってるぅ!」
美奈香がゆりあの顔を両手で挟んで覗き込んだ。
「そ、そんなことないわ、すぐにもとにもどるし」
階段を降りてきたゆりあを見て翔が眉間にしわをよせる。
「ひっでぇなぁ~、誰だよこんな事するやつ!」
「それは私たちの先輩、って事ですよね、涼風先生?」
入ってきたのは新城陽介だ。
ゆりあの胸がどきんと高鳴った。
「え?そんな事はない、と思うわ。だって、わたしタオルで目隠しされてたし
暗かったし、顔も見えなかったから、たぶん違うと思う。きっと違うわ」
陽介がメガネを押し上げてほほ笑んだ。
「両手を縛られて目隠しされていたんですよね?」
「え?ええ、そうよ」
陽介がゆりあの正面に立って見つめる。
真っ直ぐな瞳はちょっと苦手だ。
「足も、縛られていた」
「ええ、まあ、美奈香ちゃんがほどいてくれたけど」
陽介が翔の方に顔を向けて聞く。
「両手はかなりしっかり縛られていた」
翔はぶんぶんと顔を振りながら
「ああ、間違いねぇよ」
陽介がもう一度ゆりあを見つめる。
次回3月13日、アップします。