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現状把握が大変です。

こぽこぽとお茶を注ぐとレモンの香りがほんのり漂った。


神威が差し出したティーカップを詩織が受け取る。

「あ……りがと。」


しばらく二人の間に無言しじまが続く。

聞こえる音はお茶を啜るものだけだった。


かしゃんと神威がカップを置いた。

「………それで。何があったか聞いてもいいですか?」


それに詩織は一度瞑黙するように目を閉じてからこくんと頷いた。目を落とした手の上にはくしゃくしゃになったタオルと一緒に黄色い物体が乗っている。

それをそぉっとテーブルの上に乗せた。


「あの、ね……このこがおかしくなっちゃったの。でもおかしくなくて!どうすればいいか分かんなくてっ!わたしっなんかぐるぐるなっちゃって!」

言っているうちにまた涙が出てくる。


それをごしごし拭う従姉妹を見つめて神威はひそかにため息をついた。


落ち着いたかと思いましたが………まだのようですね。

何があったのか全く理解できない。


宥めすかしてことの全貌が明らかになったのはそれから三十分も後のことである。


「―――つまり………帰ってくるとその鳥がいて、しゃべっていたのに照明器具にぶつかった後、しゃべらない、ふつうの鳥になってしまった。で。学校でまだ習ってない魔法を頑張って使ってみたが結果は異常なし。それに納得できず、何度も繰り返した結果がこう、だと?」


「う………ん。そうかな?あっでも!成功したんだよ!?魔法!」

「……………。」

「ねぇ、神威兄さま聞いてる?」

「え……え。聞いてますよ?」


成功した魔法の名残もあったからあながち間違いじゃないと思う。だが、それと失敗した魔法との比率は…………1:50がいいところだ。


「………呪文《公式》教えましょうか?」


思わず口をついて出たのはこんな言葉。

本当は資格を持たないものがそんなことをしてはならないのだが………。


僕がやってもいいんですが、詩織このこも自分でやりたいだろうし。それは特例ということで………。

それに教える経験なら何度かありますし、ね。



しかし言ってからそれが不可能なことに気づいた。



ああ。魔力切れ、ですか。



魔力と体力は似たようなものだ。

ずっと走っていると疲れてもう走れなくなってしまうのと同じように魔法も使いつづけると魔力切れによってある一定から、何もできなくなってしまう。魔法といえども無から有は生み出せない。代償が必要である。


新入生は十二時前には下校だ。今は二時半。その間ずっと使いつづけていたのなら、詩織が魔力切れなのも、家中魔方陣だらけだと思ったことにも頷ける。


教科書によれば、魔方陣スクゥエア呪文スペルは魔力がない者にも使えるらしい。


その二つはコマンド。命令を伝えるための道具だから。


魔方陣で魔法が使いやすいように環境を整え、呪文で命令を入力する。その時点でそれはまだ魔法とは言えない。それらに魔力を注ぎ込んで初めて魔法が成立するのだ。いうなれば、魔方陣はハード、呪文はソフト、そして魔力は動力になる電気である。



勿論、魔力は体力と同じように使えば使うほど増える。


しかし日頃から魔法が苦手で極力使わない詩織はその最大値が小さい。


しかも二時間弱も魔法を使いつづければ、どんな人間でも魔力切れ(からっけつ)になる。


だから実際にこの家の中には魔力を注がれるのを待つばかりの魔方陣が沢山あったのだ。


「………………|mmm@.or.jp./《魔方陣起動》」


取りあえずこのとりさんを調べましょうね…………。


探知魔法をベースにして治癒魔法を織り交ぜる。それが物体に異常がないかを調べる一般的な公式だ。神威はこの鳥が何物なのかも気になって探索魔法も応用した。


//%okkei.(完了。魔術発動)


魔法が発動して、視界の片隅に結果が表示される。


小さくて見にくいので右手辺りに薄紫のスクリーンをだす。



「………………。」

そのウィンドゥに表示された結果を見て思考が停止しかけた。




|――――――――――――――――――――――――

|                        

|【結果】                    

|▼この物体に異常はありません。        

|                        

|▼ステータス                 

|・名前___                

|・性別___                 

|・HP最大値150                 

|・MPLv1                   

|・属性無                    

|・特技hなssu                 

|・特効守護                  

|・モード▽ハイテンション            

|・権限Lv1                           

|・所有者詩織                  

|・製作者???                 

|                        

|――――――――――――――――――――――――



なんだ?これ…………。

詩織の所持物に分類されてる………?

いや、それよりもこれ。


『特技』の欄に触れるとその部分がおおきくなった。



文字化けしている…………?

様子がおかしくなったのはこのせい、か………?



「………詩織さん。この鳥、しゃべったんですよね?」


聞くと彼女は首を傾げながら頷く。


それに気づきながらも神威は、深く追究しなかった。

別のことで頭がいっぱいになっていたせいだ。



しゃべる、しゃべる、しゃべる。んんーっと。――――hなssu……hなsす?hなす、はなす――話すだ!



『hなssu』に軽く触れるともう一つ別のスクリーンが立ち上る。表示されたのはキーボード。


それを使って『hなssu』を『話す』に書き換える。

瞬間、ぱちりと鳥が瞬いた。



し、っぱいしたか………な?



どぎまぎしながらも見守ること数秒―――それはいきなり、飛び上がった。



「オハヨー、オハヨー、詩織チャン、オハヨー♪」


くるくると旋回する鳥を見てぱぁぁっと詩織が元気を取り戻す。

「もとにもどったぁーーー」



あまりに突然のことに驚いた神威は思わずまじまじと手元のウィンドゥを覗き込んだ。


異常はありませんって………そうか。この鳥をふつうの鳥だと認識すればこういう答えになりますよね。

つまりは人口創造物で、しゃべる機能がついていたと限定しなかったのが悪い、と。

そういうことか。



分かっている情報を整理しつつ、現実逃避をしたいのに鳥の声は容赦なく耳に入ってくる。



「ヨカッタ、ヨカッタ、詩織チャン、アリガトー」

ばっさばっさと羽ばたく音も聞こえてくる。



このノリって………この『モード▽ハイテンション』のせいですかねぇ………?


指で触れると別の小さなウィンドゥが立ち上がり、モードを『通常』に再設定しますか。という文章が表示された。触れるボタンは勿論『Yes』。


「っきゃーー!神威兄さまっ何したのーーー?」


どうやら鳥が落ちたらしい。


また変なバグになってなければいいなと思いながら、それが通常モードですよ。と声をかける。


ふわりと黄色が宙を舞った。


「――――――…………?」


その一瞬、神威はなにかを思い出しかけたが、それは神威に掴まれる前にどこかへ行ってしまった。


鳥は逆さにして置いてあったマグカップの上に着地。そして優雅に一礼して見せた。 


神威はどこかで、それでは――を開始します。と誰かがいった気がした。


『はじめまして、ご主人さま。早速ですが名前をつけてくださいませんか?』


「え!あっはい!はじめましてっ!えと……名前って………あなた、女の子?男の子?」


『どちらでもかまいません。』


「えっ……………!?」


『ご主人さまがお好きな方をお選びください。』


「えっとじゃあ女の子で!」


『分かりました』


ぽーんと音がして、神威が出していたウィンドゥの内容が変化した。


|―――――――――――――――――――――――

|                        

|【結果】                    

|▼この物体に異常はありません。         

|                       

|▼ステータス                  

|・名前___                  

|・性別フィーメイル(おんなのこ)        

|・HP最大値150                 

|・MPLv1                    

|・属性無                    

|・特技話す                   

|・特効守護                  

|・モード▽通常                 

|・権限Lv1                    

|・所有者詩織                  

|・製作者???                 

|                       

|――――――――――――――――――――――――



やり取りは続いている。


「えっと名前名前………え?ぴ、ぴーぴー……えー?ぴるるでしょう………?ぴるるって鳴いたよね?さっき。えと……ぴーちゃん………とか?う゛ーーーちょぉっとまってね」


詩織が振り返った。今にも泣き出しそうな顔である。神威は嘆息して助け舟を出した。


「仮設定はできませんか?でないときっとあまりよく名前になりますよ?ぴーちゃんとか言ってますし。いいんですか?」


その脅しが効いたのかは分からないが、鳥はできますよと言った。


『では、いい名前を思い付かれましたら再設定してくださいね?』


「あっはい!そうします!」



………以上でファーストセッティングを終了いたします。

今度ははっきりと聞こえた。若い、でもどこか無機質な女性の声だった。


ぽーんとまた音がした。




|――――――――――――――――――――――――

|                        

|【結果】                   

|▼この物体に異常はありません。        

|                        

|▼ステータス                 

|・名前ぴーちゃん(仮)              

|・性別フィーメイル(おんなのこ)        

|・HP最大値150                

|・MPLv1                    

|・属性無                    

|・特技話す                   

|・特効守護                  

|・モード▽通常                

|・権限Lv1                    

|・所有者詩織                  

|・製作者???                 

|                        

|―――――――――――――――――――――――



…………ぴーちゃん(仮)って……。

なんだかなぁと思っていると、改めましてという声が聞こえた。


『改めましてこんにちは。詩織ちゃん。ぴーちゃんです。よろしくね』


今までの中性体のような声ではなく、かわいい女の子の声である。



「うんっよろしくね、ぴーちゃん」




「………………。……………………。」




イロイロ思うことはあったが、それには何も突っ込まない。

そのかわり、長い指で一度『製作者????』の欄を叩いた。


何かを考え込むかのように、軽く目を伏せた後、神威は手を振ってウィンドゥをしまった。



「―――――遅くなりましたが、ご飯にしましょう。お昼ご飯、食べてないでしょう………?」


ぐうきゅるるるる。

いいタイミングで詩織のお腹がなる。


「う………お腹すいたかも」


それにくすりと微笑んで二人は階下に降りた。

台所に、並んで立つ。


その詩織の肩の上にはぴーちゃん(仮)が乗っていた。







音宮家の遅い昼食が始まるのはこれから、ほんの少しだけ後のこと。






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