詩織ちゃん暴走ヤメ!!
空が赤くなるまで入学式の片付けをし、それでもなんとか終わらせて、一緒に働いていたメンバーに別れを告げる。一緒に帰ろうと誘ってくれた人もいたが、丁重に断って一人、帰路についた。
今日も長かったと思いつつ、家の鍵を開ける。ふと見上げると思わず後退りしたくなるような光景が見えた。
なっ……………!
従妹の部屋を中心として渦巻く魔力――いや、魔方陣。
しかも気持ち悪くなるほど、不完全な形のモノばかりである。
……………。………………………。何をしてくださったのでしょうかねぇ、今度は。
ため息をつきながら玄関を開けると、綺麗で完全な魔法の名残と不完全なまま空中に漂うモノが同時に押し寄せた。
それに眉をひそめながらも靴を脱ぐ。
一応は揃えてあるが、乱れて見える従妹の靴も一緒に揃えた。
これは………探知魔法?で、しょうかねぇ。
とんとんと階段を上り、世話のやける従妹の部屋をノックする。
「詩織さん……開けてもいいですか?」
返事がないのでそっと開ける。
制止の声はかからなかった。
開けると同時に何とも言えない気持ち悪さが込み上げてきた。とてもじゃないがさっきのなんてメじゃない。
もしも魔方陣が見えるとしたら、この部屋中魔方陣だらけなんじゃないかと、神威は思った。
「………………。」
それにしても階段を上っている時から気づいてはいたが………
「泣いているのですか?」
問いかけても返事はない。
神威に背を向け、魔方陣を呼び出してはぶつぶつと何かを呟いている。
普段の従妹からは考えれない様子である。
ひとつ息をつき神威は詩織の肩に手をかけた。
途端、小さな身体がびくりと跳ね上がる。
「…………かむ、兄」
振り返った詩織が、涙で潤んだ瞳で真っすぐに神威をみつめた。薄茶の美いどろのような双ぼうに捕われるような感覚を抱きつつ、詩織がもとに戻ったことを確認した、神威はタオルを手渡した。
そのままくるりと反転すると、素早く一番近くの窓を開ける。
「|mmm@.or.jp./《魔方陣起動》」
手っ取り早く風素を精製して家中の空気を入れ換える。
まずはこの気持ち悪い空気をどうにかしないと。
何があったのか聞くのはそのあとでも十分ですから。
その様子が詩織の目には、従兄の姿は綺麗な若草色の花びらが乱舞している中にいるように見えていた。
わっ…………きれー。
――――――お花の妖精さんみたい。
あー王子様かな~神威兄さまは。
どっちかというと。
んー神威兄さまとか今日の入学式の時にやってたことがわたしにもできるなら…………魔法、好きになるんだけどなぁ。
できないんだよねぇ。
練習、なのかなぁ。
なんだかぼんやりする頭で考えることはやっぱりぼんやりしていて。
ふわりと舞う花びらに手を伸ばせば、掌の上でくるりと回る。
けれどさっきとは違って手の上からするりと抜け出す。
そのまま窓の外まで―――――。
詩織は何もなくなった手をゆっくりにぎりしめた。
何となく花びらに明日から違うよと、言われている気がして。