莉瀬さんって親切なんですね
はぁっはぁっ
「ちょ、莉瀬さん、足はやっ……!」
「え?そうだった?ごめんね」
引っ張られるままついていった先は大きな掲示板。
確かにクラス編成と書いてある。
「んーここからだとちょっと遠いね。もうちょっと近づこ♪」
三年あーか、にーねん黄色、一年生は青だからぁと呟く彼女にぐいぐい引っ張られること数十秒。
大量に人がひしめき合っているこの空間で、奇跡というほど掲示板に接近できた。
赤、青、黄色と掲示板の地の色が分かれているが、その中でも青いところで名前を探す。
「えっと音宮音宮……「あれ。1-5のとこ」」
自分が見つけるより早く彼女に教えられる。
指させた方を見れば確かに。
1-5
・相川千尋
・――――
・伊藤芹華
・――――
・――――
・――――
☆音宮詩織←
・小野章吾
・河井莉瀬←
・――――
・――――
・――――
「あっおんなじクラス!」
隣を見て微笑むとうん。そうなの。よろしくねといわれた。
「ね、六組を見て。ちょうど詩織ちゃんの真横ぐらいのとこ。」
「え?うん。」
「詩織ちゃんと同じで星マークついてる子、いるでしょ?」
1-51-6
・相川千尋・――――
・――――・――――
・伊藤芹華・――――
・――――・――――
・――――・――――
・――――・――――
☆音宮詩織・――――
・小野章吾☆北川明夜←
・河井莉瀬・――――
・――――・――――
・――――・――――
・――――・――――
ふむふむ。確かに。
「あの子がさっき言ってた夜って子ね。明夜ちゃん。で、星マークがついてる子を俗に"印つき"っていうの。」
ふむふむ。
「印つきはたいていが、進級&編入試験で決まる。なにかに秀でる子が選ばれやすいっていうのはうわさ。」
ふむふむ。
「印つきはいろんな特権があるんだけど、中でも羨ましがられるのは生徒会に入れる可能性があること。」
ふむふむ。
「中等部にはなかったでしょ?生徒会。この学園の生徒会には印つきしか入れなの。勿論印つきが全員入れるわけじゃなくて、先生方の推薦か選挙で当選しないとはいれないんだけどね。」
ふむふむ。
「印つきになりたいって思うもうひとつの原因があるんだけどね。印つきは支給される制服がオリジナルなの」
ふむふむって
「え――――!!」
オリジナル?印つき?星マーク?
ちょっとまって
「待って。わたしって印つきなの?」
「うん。」
「印つきにはオリジナルの制服が支給されるんだよね?」
「うん。」
「オリジナルってみんなと違うってこと?」
「うん。」
「印つきはそのみんなと違う制服を着てても校則に引っ掛からない?」
「うん。ってか着てないと逆に引っ掛かる。」
ほ―――――よかっ
その言葉を聞いた瞬間、安心してしゃがんでしまった。
「えっちょっど、どうしたの!?」
「だってだって入学式初日からへましたんじゃないかと思ってぇ。よかった……ほんとによかった………」
「……………。ぷっ詩織さんって変な子だね。」
くすくすとひとしきり笑った後それでね、と莉瀬さんが切り出した。
「さっきどうして名前知ってるの?って聞いてきたじゃん?あれってこのマークのおかげなんだ。」
ほえ?どゆーこと?
「印つきは学年で十人選ばれるんだけど、男女の比率は決められていない。ザッと見てみなよ。この学年の女子の印つきって君と明夜だけなんだ。だから明夜じゃない一年生の女の子が、見たことない制服着てたらそれは音宮詩織だってわかるわけ。了解?」
「りょ、了解です。」
「ん。よかった。んじゃ、改めて自己紹介。あたし、河井莉瀬。この学園には外部から編入してきました。兄が三年生です。好きな教科は体育。もう走るのとか大好きなの。よろしくね。」
「はいっよろしくお願いします。………もうご存知かと思いますが、音宮詩織です。この学園には初等部から。一学年上に従兄がいます。好きな教科は……そうですね。音楽とか美術かな。体育、はちょっと苦手……かもしれません。
あれ?でも、こんな大人数の中でトップクラスになれるほどうまく出来るものってなんだろう………何だと思います?」
「―――――う~ん。ちょっと分かんないなぁ。でもま、一年間よろしくね。」
「はい……そうですよね。こちらこそよろしくお願いいたします!」
麗らかな春の陽射しのした、二人の女生徒が手を握りあう。
それを桜の花だけが見つめていた。