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連れてかれました

これからしばらく更新できそうにありません

一応受験生なので


終わったら更新出来ると思います

がた。ジー。ごそごそ。ドサッ。


昨日配布された教科書をかばんから取り出した。


―――ほぉ………きょうは寝坊しなかったぁ。

席について、ほっと息をつくのもつかの間。


「ねぇ、貴女が詩織さん?」


ん?


綺麗なおねーさんに話しかけられました。

そっと机に乗せられた手、すごく細くて、爪の形もばっちしです!!


ってそーじゃなくて!

わたしが詩織かって?


えっとまぁハイそうですが。

いったいぜんたい、なんなんでしょう?


すらりと伸びた肢体。きつい印象の眉。ふんわりとカーブして引き結ばれた口元は甘さを残した朱。肩のラインで切られた髪は、ゆるふわっと巻かれていて、どことなく小型犬を連想させる。


名札は赤いから上級生みたいですね。


白く細い手首。

袖口から覗く腕時計は上品で華奢な作り。




綺麗な人。


でも。



―――うーん。

そんなにこにこされたら、さ。


…………怖いんだよなぁ。

怒ってる神威兄さまみたいなんだよね。

めちゃそっくり!!


状況がさっぱり飲み込めない私が現実逃避していると、彼女はそのままニコニコしながら告げた。


「ね、ちょっと来てくれる?」


言うなり腕を掴む。

え?と引き攣るわたしを無視して引っ張りあげた。

がたんと椅子が抗議の音を立てる。


そうされてもわたしの思考回路はまだ回復しなかった。


ちっちゃいわたしが何人も走り回って、かと思えば急に立ち止まる。そしていつでも叫びまくっている。


どこ行くんですか?

何のために?

ここじゃダメなんですか?

ってか、貴女誰スカ!?

ねぇっねぇっ聞いてる?

おねーさぁんっ!


もう大合唱だ。

けれどいくら頭の中で言っていても、口にだしていないのだから相手には伝わらない。

綺麗なお姉さんはわたしを引っ張ってずんずん歩いていった。

教室なんてとっくに出ている。


あ………えと、こっちって確かみんなあんま使わない旧校舎があるよね?


朧げな校内地図を頭の中で広げてみた。


というか、封鎖されてるんだっけ?


何のためにこんなところへ?

思い当たる理由がひとつある。


入学二日目から呼び出し……………?

なんかしたっけ?


人のいない旧校舎の中に連れ込まれる!と身構えていると、お姉さんはその昇降口を通りすぎた。それにはっきり言って拍子抜けする。


あれ?通りすぎた?

ん?なんで?えっとあとこっちには何が?


さすがに学園内を全て把握してはいない。

だって中学部・高等部だけで800㌶あるとかないとか。

学園内には幼・小学部もあるし、職員や生徒用の寮、理事長宅だってあるし、果てには売ってないモノがないぐらいの大型ショッピングモールや、ちょっとした喫茶店までもが、あるくらいだ。

端から端までちんたら歩けば、確実に一時間コースだ。

それぐらいデカイ。


授業に出席していさえすれば、休み時間は近くの売店にいてもいいし、他の校舎に行ってもよい、というのがこの学園の数少ない校則だ。とてもゆるい。

しかしそれを律義に守ろうとすると、はっきり言ってどこにも行けない。


なぜか。


高等部から中学部に行こうとすれば、徒歩15分。小学部までは、徒歩30分は余裕でかかる。

高等部から一番近い(高等部から中等部にいく途中にある)喫茶店に行こうとすれば、片道5分かかる。

10分しかない休み時間と45分しかない休み時間では行って帰ってくるので終わってしまう距離だ。


そのことを知っている人がこの決まりを作ったのだとしたらその人は相当腹黒い。


時間がないのと、ここにまだそんなに通ってないのとで、わたしはそういうところに行ったことがない。



ハイ、はっきりいいましょう。



みなさん覚えるのは自分と関わりが深いところだけです。

わたしも含めて。

行ったことあるとか、行かなきゃいけないとか、行きたい、だとか。


自分が興味ないところなんて一切合切覚えません。


だってそうでしょう?一つの街とも言えるこの学園。あなたは自分の住んでいる街の全てを網羅している?


してるわけないよねっ!そうだよね!?


だから脳内地図は、授業で使うところしか埋まってません。

ほぼ真っ白でございます。


自分が知らない場所に連れていかれることへの不安。

それもあるが、もうひとつ。


めったに焦らないマイペースと言われるこのわたしが珍しく取り乱している理由を説明しよう。




それは。


さっきから警戒している『呼び出し』。

上級生から下級生に来てくれといわれたらこれの可能性が一番高い。

呼び出し………それは、別名制裁とも言う。

気にくわない後輩を集団で囲み、いじめる。

勿論呼び出されるにはそれなりのことをしてきた実績があるからだが。


それで言うとわたし、何もしてないと思うんだけど。


この制度が何時からこの学園にあるのかははっきりしない。


自分よりも大きな、優れた力を持った人間には―――こびる必要はないが、敬わなければならない。


初代学園長の口癖だったといわれるこの言葉が、時の流れによって歪んでしまったと考えられている。

校則のようなしっかりした制度ではないが、それは先輩から後輩に受け継がれ残っている。

いいものかどうなのかは置いといて。


その制度には学生らしい縛りもある。

それは最上級生の特権だということ。

つまり小六、中三、高三などその校舎に通う最年長者のみが、使える特別な権利というものだ。


最年長者だけが、下級生を呼び出し、気にくわない生徒を袋だたきにできる。勿論、制裁を受ける側の反撃は暗黙の了解で認められている。正当防衛というやつだ。けれどそれを歳の差、人数の差、実力の差で押し込み無視するのが世の常。ほとんどの場合反撃する間もなくやられてしまうんだとか。


ざぁざぁと水の音が聞こえた。


その音で詩織は我にかえった。

いや、思い出した。


そうだ!確かこっちには噴水が―――!



旧校舎の外壁に沿うように歩く間、お姉さんは一言もしゃべらなかった。やっと口を開いたのは、校舎の壁が途切れて角を曲がった時。


「遅くなりました。」


言うなりお姉さんはわたしを突き飛ばす。

噴水が目の前にあった。



や。噴水じゃなくて。

噴水の前の。


「…………………。」



こわそーなおねぇさま方…………。

美人ばっかりズラッと。

どうしてそんなに勢揃いなんでしょう?


やばい?やばい?やばい?やばい?やばい?やばい?やばい?

やばい?やばい?やばい?やばい?やばい?やばい?やばい?

やばい!やばい!やばい!やばい!やばい!やばい!やばい!


やばいよね!?




ううっ!

………神威兄ーたーすーけーてーっ!



*



「あーあ。つれてかれちゃった」

「そうみたいね。」



朝の光に透けるような桜の下、その光景を二人の少女が見つめていた。


二人の足元一面にしろつめ草(クローバー)が広がっている。昼休みなどには学生に大人気の中庭の一つである。

しかし早朝のこともあり、周りには誰の姿も見えなかった。


黄緑と、白のコントラストが目にも鮮やかである。


つれていかれたという呟きに、相槌をうった少女はつ、と目を細めた。そして何かを考えるように逡巡して華麗に踵を返す。長い髪がふわりと広がった。


「ええ!?助けに行かないの!?」


隣に佇んでいた少女がぎょっとしたように叫んだ。

それに黒髪の少女は足を止め、振り向いた。


彼女の漆黒の瞳ともう一人の少女の明るい茶色の瞳が交錯する。

ふっと黒髪の少女が息を吐いた。そのまま諭すように口を開く。


「莉瀬………わたしは彼女と面識がないわ。そんな人間が助けに入ったらおかしいでしょう?」

「えっ!でっでもほら!助けたら好感度急上昇だよ?友達になれるチャンスだよ!?」

「それに助けるという表現であってるか分からないし。」

「絶対あってるって!」

「ただの知り合いかも。」

「そんなことないって!あの雰囲気!絶対呼び出しだよ!」


どうしたのだろう?

いつにない友人の積極さに少女は首を傾げた。


「そこまでして彼女と友達になりたいわけじゃないわ。」

「なんで?さっきまで取りあえず友達になるって言ってたくせに!」


その声の響きで少女は理解した。

きっと彼女なりにイロイロ考えた結果なのだと。


「せっかく好印象を持ちやすい出会い方とか、考えてきたのに!」


むぅと膨れる同級生を少女は呆れ半分、同時に好ましい目で見る。

自分の目的のためなら手段を選ばない。

それなのに真っすぐで、いつも明夜のことを最優先で考えてくれる人間。

そうして見返りは求めない。


これまで少女には、こういう人間がいたことがなかった。

彼女のような人間は希少であるから。


だからこそ余計に好きになってしまう。

余計に惹かれてしまう。


「拗ねないで。助けないとは言ってないから。

正面から助けに入ったら、あとで私たちが呼び出しくらっちゃうわ。

先輩に目、つけられちゃう。それを回避したいだけなの。」

「あ………そか。分かった。」


一度説明すれば、理解してくれるところも好ましい理由の一つである。

一緒にいて面倒が少ない。


「ん。分かってくれて良かった。…………それに売れる恩は売っておいたほうがいいから、ね。」

「へ?なんか言った?」


最後、分かんなかったという莉瀬に明夜はううん、なんでもないと返す。

伏せた目をもとに戻すと、ふわりと微笑んだ。


「さあ行きましょ。」

言うと彼女は、今度こそ完全に踵を返した。


「よる……どこ、いくの?」

分かったと言ったのにまだ心配そうな莉瀬の質問に、明夜は肩越しに振り返った。

そうしてふふ、と笑う。


「秘密よ。来て。そうすれば分かるから。」

「…………………うん。」


よるはいつも秘密ばかりだと、半分いじけながら莉瀬は、その姿を追いかけた。


そうして二人の少女は詩織とは逆方向へ歩んでいった。


詩織が連れていかれた旧館(旧校舎)の方ではなく、彼女達のクラスがある新館の方へと。


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