神威にーちゃん努力する
「//%okkei.」
くらい部屋の中で赤く輝く魔方陣だけが浮かび上がった。
慎重に織りあげたそれに、今まで以上に慎重に魔力を注ぐ。
それは次第に宙に浮かび上がりくるくると回転しだした。
注ぎ込む魔力が少なすぎず多すぎず、一定の量になるように目を閉じて集中する。
「……………………っ!」
バチンッ!
突然何かが破裂するような音がして光がふっと消えた。
辺りになりやら焦げ臭いニオイが漂う。
「…………ちっ!」
光源が何もなくなった部屋で青年が盛大に舌打ちした。
また失敗ですか………。
張り詰めていた息を吐くと、すとんとベットの上に腰を下ろす。
何度やっても結果は同じ。
詩織にあの鳥を造った人物は分からないし、あの鳥がどういう用途で贈られてきたのかも分からない。
まぁ、あの鳥のステータス情報を見るかぎり、詩織に危害を加えるようなモノではない、ということは分かっているのだが。
何と言っても『特効:守護』の、『権限:Lv1』でしたし…………。
あれはおそらく詩織を守るもの。
でも『権限:Lv1』では、人に危害を加えることもできない。
できることはしゃべることだけ。
詩織が危険なめにあっても、相手を殴り飛ばすこともできなくてなにが『特効:守護』なのだろうか。
……………ホントに分かりませんねぇ。
「…………………はぁ。」
さすがにげんなりする。
それでなくとも高等部は魔人変人の巣窟で、気にかけることも多いというのに、たかが一匹の鳥についても調べきれず、不安材料が増えている。
自分ってこんなに使えないんでしたっけ…………?
本日何十回目かの失敗で、学園でトップクラスの神威の魔力も底が見えてきた。もう苦笑いするしかない。
多分惜しいとこまではいってるんですけどねぇ~。
何度やっても、鳥の製作者を突き止められない。
毎回、同じようでちょっとずつ違う呪文で魔法を使ってみた。
それでも毎回失敗して、その代償に魔力がごっそり持って行かれる。
これは神威の使っている呪文が、間違っているのではない。
神威が調べたい人間がよっぽどの高性能な防御壁を張っているか、そういうお守りを身につけているか、はたまた神威よりも魔力が大きいかだ。
いずれにせよ、これだけやってもできないなら神威には突き止められないということだ。
神威より魔力の大きい人間ならできるかもしれないが…………。
明日、会長に頼んでみますかぁ………。
めったに人を頼らない神威が簡単に頼ることを決めたのは、生徒会長が神威の数少ない友人であることそうだが……
あれだけ本物そっくりで知能も高くて、なおかつ小さいものを造るにはとてつもない時間と魔力と手間がかかりますよねぇ。
時間と魔力と手間を惜しまない人はいったい誰なんでしょう?
そして時間と魔力と手間をかけて造られたものは、さて、何に使われるんでしょう………?
そのことが気になってしょうがないからだ。
急がなければ。何かが起きた時では遅いのだから。
「神威兄さまー?晩御飯できたよー?食べないのー?」
詩織が階段下から呼んでいる。
そうでした。きょうは詩織さん一人に頼んだのでしたっけ、晩御飯。何か作りたいモノがあるんだとか。
「すみません。いますぐいきます。」
せっかく作ってくれたのに冷めてしまっては悪いですからね。
立ち上がると黒いタートルネックの上から同色のパーカを羽織る。
十数秒後、部屋の扉がパタンと閉じられた。
【おまけ】
詩織のえへへー入学祝いと進級祝いとあとぴーちゃんの歓迎会っということで、ちょっとだけ豪華でーすという言葉を聞いて、神威は思い出した。
あ、なんでしたっけ。父さんがなんかいってたような気が。入学祝いに何かを渡してほしいだかどーの。
まぁ、いいか。あとでも。
お腹すきましたし。
「いっただっきまーす」
「いただきます」
手を合わせた神威の頭の中には父が言っていたことなんて、ひとかけらも残ってはいなかった。
それが全然良くなかったと気づくのはもっと後のこと。
でもこの時神威は考えもしなかった。
"渡してほしいもの″と″ぴーちゃん″とに深い繋がりがあるなんて。




