訪問販売
玄関の方から、男の声が聞こえてきた。
……お客さんかな?
玄関の汚れたドアを開けると、黒い鞄を前で両手持ちした小柄な男が立っていた。
「私は、トイレのセールスをしている者でして…」
「間に合ってます。」
「話だけでも…」
「間に合ってます。」
強引にドアを閉めようとした時、一瞬男の目が大きく見開かれた。
「話を聞いて頂けますね?」
「…う……はい。」
体が急に重くなり、立っていられなくなって、その場に座り込でしまった。
男がニコニコしながら中に入って来て、玄関のドアを閉めた。
そして、鞄を開け自分の前にパンフレットを並べていく。
「新商品のウォシュレットで御座いまして…」
「……。」
「水流の強弱だけではなく、感覚まで変えられるようになりまして…
・舌で舐めて貰う感覚
・指で拭く感覚
・新聞紙で拭く感覚
などなど、様々なモードを用意しております。」
「……。」
「…勿論、豊富なカスタマイズメニューを用意していますので、水流を太さ15センチまで広げる事なども可能ですよ。」
「……。」
「そうですか、有難う御座います。では、此方が契約書です。」
「……う…う…」
「はい、確かに。では、工事は既に済みましたので、ご確認下さい。」
「……え…う…」
「振り込み、有難う御座います。此方が領収書です。では、何かありましたらコチラに連絡下さいませ。」
名刺を渡された時、重い体が自由に動くようになった。
──男は、既に帰ってしまっていた。
トイレのドアを開けると、便器が金色になっていた。
その隣に取扱い説明書が置いてあった。
最強モードにすると、世界的に有名な滝並みの水流に出来るらしい。
──試してみた。
大きい方を排出したあと、説明書を見ながら水流の設定をしていき、ドキドキしながらボタンを押した。
すると、激しい水流に体を飛ばされ、天井に頭をぶつけてしまった。