表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貞潔は記憶  作者: monoplayer
1章(現代編)
7/7

六話 魅惑な誘い

~YUI Side~


ぷしゅう~

そんな間の抜けた音と一緒に、琳ちゃんとお酒の缶を開ける


「はいかんぱーい!」

「か、かんぱーい…」


琳ちゃんはお酒を飲む前から、酔ってるみたい

たまにこの子のテンションには着いてこれなくなる…


「ぷはぁ~やっぱり、宅飲みはビールに限るね」

「そ、そうかな…ビールなんて苦いだけじゃん…」


お互いに部屋の壁にもたれるように安座する


「…」


部屋を見渡す

…琳ちゃんの部屋はいつも整っている

でもそれは別に褒め言葉なんかじゃない

私や、大和、西川くん以外が琳ちゃんの部屋を見ると少し驚くと思う

他の人よりもものすごく物が少ないし、ぬいぐるみやファンシーな家具の一つや二つもない

琳ちゃんそのものは、いつもおしゃれだし、元気なポニーテールをしている分、そのギャップに驚いちゃう


「今日も甘い酒しか飲まないの?」


私がちびちび飲んでる3%くらいのカシオレをちらりと見た


「…だって、お酒得意じゃないし…ジュースの方が美味しいじゃん」

「やっぱりまだまだ唯ちゃんは子供だね~」

「えーやめてよ…それ、大和にも言われてるから結構気にしてるのに」

「へへへ…また小磯くんとの惚気話?聞いてあげるよ」

「…もうっ」


そのニヤいついた笑顔がどうにも気に食わなくて、そっぽを向いてしまう


「唯ちゃんさ、お酒飲むとすぐ酔うじゃない?」

「え、うん…ぽわぽわしちゃって眠くなってきちゃうんだよね」

「その時の唯ちゃんはかわいいよ?」

「え?なんか変なこと言ってる…?」

「ずっと小磯くんの話してる」

「えっ…」


唯ちゃんが私の顔面を覗くようにこちらを見ている

その視線を感じ取った瞬間、頭が沸騰したみたいにぐるぐるしちゃう


「赤くなってる。かわいい」

「…っ!」


また視線を逸らす


「やっぱりさぁ唯ちゃん。大和のこと好きなの?」

「好きなんかじゃ…ないよ」


琳ちゃんが、彼のことを『大和』と呼んだことに少し戸惑いながら、絞り出すように声を出した


「へぇ…いっつも大和と一緒だし、てっきり狙ってるのか思ってた」

「狙ってるって…」

「私、そういうの分かんないし、多分大和も私にそういう感情を持ってないと思う」 

「ふーん、でも一緒に居て楽しいでしょ?」

「そりゃそうだけど…」

「大和が他の女の子と仲良くしててもいいの?」

「…」


その質問に私は答えず、一気にお酒を煽った

うぇ…すこしえづいた

(ピローン♪)


「ん…?」


琳ちゃんの携帯から通知が鳴る


「誰から?」

「んー、西川くんだね」


琳ちゃんは、メールの文面をぼうっと眺める

でも、表情がなんとも言えない

嬉しいような、悲しいようなそんな表情をしていた

 

「…相思相愛じゃん」

「え?」

「なんでもないよ」

「んーでも、唯ちゃんがその気が無いなら、私が大和を狙っちゃおうかな?」

「えっ…」


琳ちゃんが大和と隣に歩いている

私は後ろでそれを眺めている

悲しい…悔しい…そんな表情が渦巻いた

でも、相手が琳ちゃんなら…と思う私もいた

(ピンポーン♪)

そんなことをぐるぐると考えているうちに、玄関からチャイムが鳴った

時間的に宅配では無さそうだけど…


「だれ?私の知ってる人?」

「んー?大和たち」


どくん

また心臓が跳ねた


~YUI Side End~

………

……


玄関を開け、まず一番印象的なのはカラッとしたお香の匂い

それと同時に、アルコールの匂いが微かに醸している

行くたびに思うのだが、岡宮の家はなんとも言えない雰囲気を催していた

部屋は整然とし過ぎているし、私物も少ない

勿論、部屋は綺麗にするに越したことはないのだが、岡宮のそれは少し異質だ


「おっす」

「ほら、岡宮たちが好きそうなツマミ買ってきたぞ」


廊下を抜け、ワンルームの部屋に入ると右側の壁にもたれ掛かっている2人を見つける

肩をつけ合って本当に仲睦まじい


「ありがと~」


岡宮は西川からビニール袋をひったくるといろいろと物色し始める


「…?」


そんな姿を見ていると、やたらと視線を感じる


「…」

「どうした?若木?」


若木が、今にも泣き出しそうな目でこっちを見ていた

もっと俗っぽい言い方をするなら、『捨てられたチワワ』のような姿だ


「え?ううん!なんでもないよ!」


しかしそんな表情も彼女の笑顔でかき消される

…何かあったのだろうか?


「ねぇねぇ、小磯くん!」 


岡宮の呼び声で思考が中断する


「え?」

「この中だったらツマミ、何が好き?」

「そうだな…俺だったら…」


………

……


時刻はちょうど丑三つ時だろうか

世間では縁起の悪い時間だと言われているが、こちらではそんなことも感じさせない賑やかな時間だった


「あ"~頭痛い…」

「もう…こんなに飲むから…」


…賑やか過ぎて、一人飛びかけている人もいるくらいだが

机の上には酒の缶が7、8本転がっている

これを全部、岡宮が飲んでいるのが驚きだ


「もー琳ちゃん飛ばしすぎ…」


若木は岡宮の背中をさすりつつ介抱している


「参ったな…このまま岡宮を一人にする訳にはいかないし」

「仕方ない、か。大和、若木、岡宮の介抱は俺がしよう」

「たしか二人とも明日早いだろう?」

「あ、ほんとに?助かる!」

「恩に着る。西川」


岡宮たちとの宅飲みはいつもこんな感じで終了する

岡宮が取り留めのないことをマシンガンのようにまくし立て、そして勝手に潰れる

最後に介抱するのはいつも西川なのだが、嫌な顔一つしないのはものすごい胆力だ

なにせ岡宮は顔面に吐瀉物を撒き散らすほど、酒癖が悪かった


「え"~?もう帰っちゃうのー?」

「わがまま言うな…岡宮。もっと節度を持って飲めばもう少し居てくれたものを」


西川はそう言うと、床に寝そべっている岡宮を起こす


「んじゃ俺達は帰るぞ、西川、岡宮を頼む」

「あぁ、任された」

「ばいばい、琳ちゃん」


そう言って立ち上がる


「…」


とうの岡宮は眠そうな表情をしながらこちらを見てくる

…正確に言えば俺を見ていた


「どうした?」

「ねぇ"~大和、まだ帰っちゃだめー」

「うわ!酒くせ!」


岡宮はフラフラと立ち上がると俺に抱きついてくる

顔と顔との距離があまりにも近い

5cmくらいだろうか

漏れ出る吐息からはアルコールの匂いが混じっているが、どうも熱っぽい


「ねぇ大和、まだ帰っちゃだめ」

「そんなこと言ったって…」

「り、琳ちゃん…大和を困らしちゃだめだよ」


そう言って若木が岡宮に手を伸ばす


「ヤっ!」


しかし、岡宮はその手を素気無く払う


「『ヤっ!』って…子供かお前は」


引き剥がそうとするが、案外力が入っており簡単に離れそうにない


「大和はさ…寂しくて、泣いちゃいたい夜は無いの?」

「ずっと…ずっとね。大和は私にそっくりだと思ってたよ」

「私は分かるよ。大和は強がりさんだもんね」

「…っ!」


岡宮は俺の腰に手を回し、控えめながらも撫でてくる

得も言えない快感に耐えながら思考を回転させる

見透かされている…?

『あのこと』を想って泣いた日はもう数え切れない

俺は…惰性で今を生きている

ずっと、過去に囚われて生きている

だからだろうか…?思わず… 


「あ、あぁ。寂しくて、泣きそうな日くらいあるさ」


そう言ってしまった


「ふふ…そうなんだ…」

「じゃあさ、私と慰め合いっこしよっか」


近かった距離がさらに近くなる

もう岡宮の顔が全面に映っている

それは、あまりにも甘美で魅惑的な誘いだった

二つ返事で受け容れてしまいそうなほど、あまりにも甘美


「そ、それは…」

「大和なら…いいよ。お互いすっきりしようよ…」


俺は、その誘いに…


「だ、ダメッー!」


そんな若木の叫び声で思考が中断する


「琳ちゃん!酔ってるからって、大和を困らせないの!」

「ふーん、唯ちゃん…大和のカレシでもないくせに?」

「…っ!とにかくダメなものはダメなの!」


そう言って、俺と岡宮を無理やり引き剥がす


「大和!帰るよ!西川くん!琳ちゃんをお願いします!」

「ちょっ、力強いって…!」


若木は俺の手を握り無理やり玄関に引っ張っていく


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ