五話 詮索と結論
「であるからしてこの答えは~」
大学の授業をぼうっと受ける
しかし、学生と言ってもかなり俺達は不真面目な方ではないだろうか
授業中にも携帯を弄るし、取り留めもない会話に花を咲かせたりする
…というか、人生の夏休みと呼ばれた大学生生活で、中学や高校と同じくらい勉強する奴なんてそうそう居ないだろう
かくいう俺も、高校では全てをなげうって勉強していたが、大学になった途端こんなザマだ
「あ、駅前のカフェのハニトー美味しそう」
隣で同じく携帯を弄っていた若木が呟く
「へぇ…」
「大和、今日行かない?」
「あぁ、いいよ」
「あ、そのすぐ近くにカラオケ出来たんだって。安いし行こうよ」
「分かった」
「そういえば今日の夜ひま?琳ちゃんの家で飲むんだけど来る?」
「あい」
「…」
「ホントに聞いてる?」
「うっす」
「…」
「じゃあ、私と付き合ってよ」
「了解」
「…ふんっ!」
「痛ぁ!」
いきなり頭を叩かれる
「私の話聞いてた?」
「あぁ、すまん。聞いてなかった」
「だよねぇ」
安心したような、残念なような。そんな表情をしていた
「…なんか俺、おかしなこと言ってた?」
「…言ってないよ」
何か含みがありそうな笑みだったが、あまり言及しないようにする
「…」
若木はこちらを向いて、こちらをじろりと見た
なんだか呆れ顔にも見える
「え、なに?」
「…大和って本当にカレシ向きじゃないよね」
「え、若木にそういうこと言われるのめっちゃ不本意なんだけど」
「こういう態度を私以外でやってみ?すぐ嫌われちゃうから」
「…そうなのか」
「そうそう、大和の相手出来るの私くらいなんだから」
「む…」
流石にそこまで言われると反論したくもなる
「いやいや、俺だって女友達の一人や二人いるぞ」
「へぇ…今朝連絡取ってた女の子とか?」
「…それは忘れてくれ」
あれはノーカンだろう
「彼女」との関わりは、もはや絆とか友情というより惰性というものだ
「…そう考えると俺って友達少ないな」
「強いていうなら岡宮と西川くらいしか思い浮かばないぞ」
「えへへ…やっぱり?大和って友達少なそうだもんね」
「そんなに嬉しがられると意地が悪いぞ…」
「別にね?大和に友達が少なくて嬉しいっていうことじゃないの」
「ほう。というと?」
「その分、私と遊ぶ機会が増えるじゃない?それが嬉しいの」
俺の目を見て、まっすぐとそんな視線を向けてくる
そんな屈託のない笑顔に思わず目を反らしてしまう
「…」
「まあ、俺も嬉しいよ」
………
……
…
「もー!二人ともイチャイチャしすぎ!」
授業が終わり、いざ席を立とうとすると、後ろに座っていた岡宮にそう声をかけられる
「い、イチャイチャ?」
「だってねぇ?ずっと肩くっつけあって、なんか喋ってたじゃん」
「いや、普通に今日の予定を確認してただけだ」
「…今日の予定とは?」
「若木がどこか行きたい所があるから、着いていくんだ」
「それは、世間で言うところのデートと言われるやつではないだろうか」
西川が真面目くさった顔でそんなことを言う
「そんなこと言われても…」
「二人とも、今日はそういう日なのか?若木と俺を弄って楽しむとかそういう趣旨の」
「オホン…」
「とにかくだな…大和。たまには俺と遊んでもバチは当たるまい。最近は若木と遊びすぎだ」
つまり…?
二人はただ若木と俺がよく遊ぶのを見て、寂しくなったとかそういうこと?
「…なんだ、意外とかわいいところあるじゃないか」
「…まあそういうことにしておいてくれ」
西川は、ばつが悪そうに目を逸らす
「え?じゃあ今日は、4人で…もごまも…」
「唯ちゃーん…唯ちゃんは私と遊ぼうねぇ」
「ま?もごもまむはらへふひむいはん?(なんで?わざわざ2人ずつで遊ぶ意味なくない?)」
「…」
…わざわざ2人ずつで遊ぶということは、同性同士でしか喋れない物入りな会話なのだろうか
「…」
西川は相変わらずなんとも言えない表情で若木たちを見ているし
「なんか、しょうもないことを考えてる気がするぞ」
「むぐむぐ(コクコク)」
「えぇ?そうかな?唯ちゃんも小磯くんにいつもべったりだし…たまには…ねぇ?」
「利害の一致というやつだ。分かってくれ、大和」
「岡宮はまだしも、西川が言うならそうなんだろう」
「理解が早くて助かる」
「え、ひーどい」
「むぐむぐ…(こ、呼吸が…)」
………
……
…
「ありがとうございやしたぁ」
授業が終わり、二人で牛丼屋に向かった
若木と行く予定だったところよりかは随分とランクダウンしてしまったが、まあこれもこれで悪くない
西川とは数少ない、腹を割って話せる奴だからな
「「…」」
町中を目的もなく適当に歩く
空は赤黒い
夜風が流れてきて、一気に体を冷やす
西川も俺も、どちらかと言えばあまり喋らない性分なのからか、沈黙が多い
そうなると余計に感覚に敏感になってしまう感じがした
…何か、適当な話題はないだろうか
「そういえば…」
「ん?」
「本当に、若木とはなんにも無いんだな?」
まさか、西川までそんなことを言うなんて思わなかった
「本当に何も無いって。西川も岡宮から変なこと吹き込まれたのか?」
「いや…そうではないんだが」
「どうも、若木はお前の家に入り浸っているようじゃないか」
「客観的に、傍から見たらそう見えるというものだ」
「あのな、若木はああ見えて幼い。そういう感情を持ち合わせてはいないし、俺にも求めてないはずだ」
「なるほど。詰まるところ、大和は友人として…いや、父親か何かとして若木と接しているわけか」
「大和の言動を察するに、どうも若木を子供扱いしたいらしいな」
随分とトゲがある言い草だ
…若木を子供扱いだと?
『そこら辺でやめてやれ、岡宮。若木はこう見えて意外と純情なんだ』
『あのな、若木はああ見えて幼い。そういう感情を持ち合わせてはいないし、俺にも求めてないはずだ』
過去の自分の言動を思い出す
…確かに、感情的にはそれに近いかもしれない
でも、それがなんだと言うのだ
それが若木と俺の関係において、致命的になることはあるまいに…
「…もっと、直接的に説明しないとだめか」
「大和、お前は若木からの好意をいつまで無碍にするつもりだ」
「別に無碍になんか…」
「いいや、無碍にしている。若木はもう一歩、大和との関係を急いている」
「それを、曖昧な態度で躱しているのは大和自身だ」
「…」
…そうなのだろうか
余計なお世話だと一蹴したくもなるが、それは議論の放棄だ
俺は当事者だからどうにも言えるが、客観的に見たらそう見えるのだろう
ましてや、あの寡黙な西川がそう言っているのだ
「…さっきも言ったが、俺は若木の『友達』だ。若木がどう思っているかは知らないが、俺からは関係を変えるつもりはない」
「…そうか。では、若木がどこの馬の骨とも分からない男に抱かれても、大和は何も思わないのだな」
「…ッ」
一瞬、ほんの一瞬、心に冷たい風邪が入り込んだ気がした
そして、胸がちくちくと苦しい
どうにも、この経験は覚えがあった
だが、この感情がどこで感じたものなのかは、まるで覚えていなかった
「俺は…変わらない今の生活が好きだ」
「何かを成そうとして…壊れる可能性があるならしないほうがマシだ」
「まあ…大和がそう結論つけるならそれでいいのだが」
「…というかなんでそんなことを聞く」
「若木に誰か男でも紹介するのか?」
「いいや、そんなことはないが。どうも、岡宮が若木をひどく心配していてな」
「でも、大和も此のような感じだし、一度結論を付けた方がいいのではと考えたようだ」
「…どうも他人事だな」
「ああ、すまない。俺もこんな探るようなことはしたくなかった。でも、岡宮がどうしてもと聞かなくてな」
「『同性でしか喋れないことってあるでしょ?』…とのことだ」
「…ああなるほど、岡宮のお使いって感じか」
「そういう解釈で頼む」
岡宮も困ったものだ
人間関係なんて、そんな一義的なものではないはずだ
言葉で全ての表現が可能なら、こんなに難しい世の中にはなっていない
でもこれを俺が言うのはどこか間違っている気がする
ただの結論の先延ばしや、言い訳に過ぎないのではないか…そう思う自分もいる
「どうした…大和、そんな難しい顔して」
気づけば、西川が遥か遠くに歩いていた
「すまん、考え事をしていた」
「…そう言えば、俺達は今、どこに向かってるんだ?」
「…岡宮の家だよ」
「若木もいるのか?」
「当然」
少し、若木と会うのが気まずいな…
どういう表情で会えばいいのだろうか




