三話 誕生日の日
「ただいまぁ…」
一応帰りの挨拶はするが、反応は当然ゼロ
身近な電気を入れる
「ま、そりゃ居ないよな」
自分の部屋で手早く着替え、リビングに行く
「ん…これは…」
リビングの食卓にはキレイに包装された
小包が置かれていた
「母さん、忙しいのにありがとう」
そうひとりごつ
書き置きを見る
『明日は里月ちゃんの誕生日!大和の言うとおり、プレゼントを用意しました!』
明日は里月の誕生日
それも、来年には卒業だからもう会うこともないし、祝ってあげることも出来ないかもしれない
だから…今回ばかりは里月の心に残るようなプレゼントを渡したい
いろいろ悩んだけども、やっぱり形として残る物がいいと思って、母親にお願いして一介の学生には入手が難しいプレゼントを用意して貰った
別に、これからも里月との関係を強要するわけでは無いのだけど、人生において、片隅に僕のことを覚えていてさえくれれば幸せなんだ
そんな、エゴと希望がこもったプレゼント
里月は、受け取ってくれるだろうか
「ん…?」
書き置きの裏に、まだ文字が書いてあった
『想いを伝えるなら、明日がチャンス!里月ちゃんならきっと受け入れてくれるよ!』
「ふふ‥母さん‥」
どうやら僕の気持ちはお見通しらしい
なんでか、僕の周りの人は、心を読むのに長けている
‥誰とは言わないけど
‥僕も気持ちを固める時が来たのかもしれない
さっきは、記憶の片隅に僕がいたら良いと行ったけども、やっぱり一緒に人生を歩みたい!
そんな気持ちがますます大きくなっていく
………
……
…
次の日
里月に想いを伝えよう!
そう決心したのはいいけど、どのタイミングで渡すかは非常に悩むところだ
毎年、例年なら里月の方から『ちょうだい♪』って何かしらあるんだよなぁ…情けないことに
でも今年は別だ
せっかく想いを伝えるなら、僕の方から男らしく決めたい
(ガララ…)
あ!来た!
「あ、あの!里月!」
「あ、おはよう。大和。そんなに焦って何か私に用?」
「あ、あのな…その…」
言え!言うんだ大和!
「さっちゃんーちょっと手伝ってぇ!」
「はーい」
「ごめんね、大和。ちょっと、友達のお手伝いしないといけないから後ででいい?」
「う、うん…」
………
……
…
里月、土井里月
この女の子は、成績優秀、スポーツ万能、その他思いつく限りの教養を、齢10にして全てを持っていた
そう、僕とは比べ物にはならないほどに‥その姿は美しく、近寄りがたい
そして、彼女はめっちゃ多忙である!
部活も、委員会も所属はしてないくせに、いろんなとこに顔を出しては、おせっかいを焼きたがる
いつの日か、なんでそんなに雑用を進んでしたがるのか聞いたことがある
『うーん、自分のため…かな?』
『ほら、そういう新鮮な環境にいれば新しいイベントとか出会いがあるじゃない?それが楽しいの』
そんなことを言っていたような気がする
普段なら『凄い』という感想で終わるんだけども、今日ばかりは恨めしい
………
……
…
昼休み
「さ、里月!あのさ…」
「ごめんね大和。生徒会に顔を出さないといけなくなっちゃった。放課後で良いかな?」
「…はい。分かりました」
………
……
…
「はぁ…」
廊下の窓を眺めながら、なんだかセンチメンタルな気分になる
「おいおい、大和。ため息なんて吐くなよ。災難だったな」
「災難って…」
「今日は里月の誕生日だろ?お前、プレゼントを渡すチャンスをめっちゃ伺ってたよな」
「流石に宏樹にはバレてるか…」
「ああ、傍から見たら滑稽だったぜ」
「うぅ…」
「ま、アイツは悪気はねぇよ。本当に忙しいだけでお前との時間はじっくり取りたいんだ、きっと」
「そうだといいなぁ…」
ドンッ…
「ん…?」
「なんだぁ?」
僕の胸元に飛び込んでくる小さい影
「あ、あの、あのあの‥」
声も震え、俯いてこっちを見ない
第一印象はその艷やかな長い黒髪だった
…いや、厳密に言えばそれしか見えなかったのだけど
「ど、どうしたの?君」
「すみません、すみません!私の不注意でぶつかってしまいました…」
わたくし…?
そんなお嬢様みたいな言葉遣いをする子がいるんだ
「…」
宏樹がなんだか思案顔だ
「わたくし…わたくし…お前、衛澤の人間だろ」
「え、え、はい…衛澤絢と申します…」
僕のシャツをぎゅっと握って宏樹と目を合わせようとしない
この仕草は可愛らしいのだけど、案外力が強いなこの子
「衛澤の人間…?宏樹、なんだそれ」
「ほら、ここら一体の土地を持ってるって有名な氏族だよ」
「あー聞いたことある」
「この学校も先代の衛澤がほとんどの資金を出して作ったって言ってたろ?」
「あー!授業でやってたね!」
え、てことは…
この子、めっちゃお嬢様だってこと?
「良かったな大和。衛澤の人間とこんなにベタベタ出来るなんて光栄なことだぞ」
「あ、ごめ…」
「ごめんなさーいー!!!」
僕が何かを言い終わる前に、衛澤さんは走って廊下を駆けていく
「うーん。衛澤の人間って、てっきり自信過剰で、ナルシストで、高貴な人間だと思ってけど案外ああいうやつもいるんだな」
「宏樹、めっちゃずけずけ言うね…」
衛澤さんの後ろ姿を眺めながら、そんなことを話す
「あ、また誰かにぶつかった」
「あちゃー」
ぶつかった相手は…里月!?
あ、でも里月と衛澤さんは結構親しそうに話している
「なぁ、大和。もしかして衛澤と土井って面識あるのか?」
「分かんないなぁ」
でもあり得る話だ
里月はいろんなところに出入りしてるって言うし
最終的に衛澤さんは手に持っていた小包を里月に押し付けると、走ってどこかに行ってしまった
「どうやら、衛澤は土井に誕生日祝いをしていたらしいぞ」
「凄いな、土井は。まさか衛澤の人間にも慕われてるなんて」
「そうだね…」
………
……
…
放課後
「結局放課後になってしまった…」
窓を見れば夕暮れ
カラスの鳴き声が情けないほどに教室に響いた
教室にはもう誰もいない
里月はHRが終わるとどこかに行ってしまった
多分、どこかの手伝いをしてるのだろうとしばらく待ってみたけども一向に帰ってくる気配は無かった
やっぱり、里月にとって僕はその程度の人間なんだろうか
重い腰を持ち上げ、帰る支度をする
「はぁ…」
「帰ろう…」
………
……
…
今日はいつも里月と通る道じゃなく、もう少し人通りが多い道で帰る
いつもの道は…あれは、里月と一緒に帰る道なんだ
あと気分的にも、人の気配がしそうなところから帰りたかった
「…はぁ」
手提げの中にあるキレイにラッピングされたプレゼントを見た
結局、今日は渡せずじまいだった
想いも伝えられず、誕生日祝いすらも出来なかった
でも…これでいいのかもしれない
所詮は里月は高嶺の花
僕が手に届くようなものでは無かったのだ
プレゼントは匿名で明日机の中にでも突っ込んでおこう
「ん…?」
チラリと通りかかったコンビニを見る
あの赤みかかって、腰まで届きそうな長い髪…
里月!?
間違えない、里月だ!
でも少し様子がおかしい
駐車場の端っこに座り込んで、携帯電話を片手に物思いに耽っていた
その姿はまるで…自棄になった人そのものだ
父親が亡くなってすぐの頃、母親もあんな仕草をしていた
「ねえ、里月」
たまらず話しかける
「…ん?あぁ、大和じゃない。こんなところでどうしたの?」
「…ッ!」
顔をゆっくりと持ち上げ、僕の方を見た
目は虚ろ
首を動かす動作ですら、ぎこちない
「どうしたの‥って、こっちのセリフだよ」
「ふふ…まぁこんな姿を見せちゃそう思うよね」
「でもね、これが本当の私」
その濁った目は僕に何も伝えてはくれない
何かの殻に閉じこもったように、僕のむこうがわにある虚空を眺めている
『諦念』
そんな言葉が浮かんだ




