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黒ギャル女子高生こわい

 寝返りを打った拍子に自分が眠りから醒めたと言う事を理解した。

 しかし意識そのものはまだ曖昧模糊としている。まるで脳みそが重油に漬けられたかのように動かない。

 このまま眠り続けて死にそうだと感じた。

 寝ていたのは自宅のベッドよりやや広い寝台だ。投げ出された手足は薄いタオルケットの中にある。新品の生地は柔らかく、知らない匂いがする。


 起きた瞬間に分かっていたことだが、ここは自分の知らない部屋である。まるで蛍光灯みたいに立ち上がりの遅い脳みそに、違和感と焦燥感が領土を拡大し始めている。


 不用意に起き上がるのも怖いので、横になったまま部屋を観察する。

 白だか薄い青だかのタイル張りの壁。天井に備え付けられた安っぽいシャンデリア。その薄明るい照明で見えるのは同じく壁に設置された鏡台と椅子、そして浴槽であった。

 浴槽は手足を伸ばせそうなくらい大きい。湯が張ってあるのか、白いものが立ち昇っている。


 部屋に、浴槽?


「あ、起きた?」

 錯乱した脳みそに追い討ちを掛けるように女の声が聞こえた。

 咄嗟に声とは逆側に寝返りを打つ。反応するのは拙いと思ったからだ。

 目の前にタイルの壁が見える。タイルの目地には黴を漂白した形跡がある。

 背後に女の気配が近づき「起きてるんでしょ」と言った。

 やたらに甘い花の様な香りがした。

「起きた?起きてるんでしょ?ねぇ、ねぇってば」

 女の声に反応せずにいると「起きてる癖に、嘘つき」と言う声を置いて、女の気配が遠ざかった。


 怖かった。とても怖かった。

 ひとまずは女が遠ざかり、止めていた呼吸を再開する。

 何か軽い金属でできた鎖の束が揺れる音を聞いていた。

 あれは何の音だ?

 これはどう言う状況だ?

 あれは誰だ?

 いまはいつ?ここはどこだ?


 病院で看護師がするように自分の名前と生年月日を脳内で自問して、脳内で自答する。

 ナカハラツバサ。

 1985年3月24日産まれ。

 住所は東京都世田谷区豪徳寺。

 自分はいまタイル張りの部屋にいて、その部屋には寝台と鏡台、それに浴槽がある事が分かっている。



 窓は無い。だがどこかにドアがあるはずだ。

 自分がどうやってここに来た?入ったのか?入れられたのか?

 眠る前、確か仕事を終えてアパートに帰ってきた。飲んではいない。とにかく疲れていて、シャワーを浴びるとすぐに万年床に倒れ込んだ。

 そこまでは覚えている。


 狂っていない、と思うが自信は無い。

 もしかしたら仕事に行っていたと言う記憶が嘘で、無職人生の辛さのあまりに見た夢だと言う事もあり得る。

 もしかしてこれがその現実なのか。

 長い夢を見ていてそこから醒めたのか。胡蝶は飛び去ったのか。

 意を決して起き上がり、部屋を見回した。 

 浴槽の傍に広がる洗い場に、ビニールマットが敷いてある。

 そこに寝そべっていた女が顔を上げた。


「ほら、やっぱり起きてたんじゃん」

 薄茶色い肌とアライグマのような化粧の顔だった。やや垂れ気味の目はふちを黒く塗られていて、まつ毛は長く光っている。

 少し霞んだ金色の髪は肩の上で切られており、頭には南国風の花が一輪ささっている。

 女が着ている青いボタンシャツの蝶ネクタイを見ながら、なんとなくそれが何かの制服であると言う事は理解した。


 女を見ていると

「ちょっと、返事くらいしてよ」

 ってか見過ぎでしょ、ヤバ……と今までより少し強い口調で女が言った。

「うん」

 とりあえずで返した自分の声は、思ったより高い音だった。


 薄青色のボタンシャツを着た女はあまり期待していない声で尋ねた。

「あのさ、ちょっと訊きたいんだけど、ここがどこであんたは誰なの」

 それはこっちも訊きたい。

「ってか訊いていい?名前とか」

 とかって何だ?

 名前のほかに何を知りたいのか。住所年齢電話番号と銀行口座だとかクレジットカード、キャッシュカードの暗所番号か?

 大体、名前を知りたいのなら自分から……



「アタシはアイカ」

 薄青色のシャツを着た女は名乗った。

「俺はナカハラツバサ」

 釣られて名乗ったとき、自分の一人称がオレであると言う事を俺はいま知った。

「へぇ、俺クンはツバサって言うんだ。ウケる」

 薄青色のシャツを着た女は本当に少し笑っていた。何が面白いのかは全くわからない。


 ビニールマットから立ち上がった女は、太腿のあたりまでしか無い短いスカートを払うと傍らに置かれた小さな椅子に座った。

 妙な形をした椅子で、中央は大きく窪んでいる。

 その短いスカートから伸びた女の脚は、やはり褐色だった。脛から下はやたらにヒダの多い靴下が床まで続いている。


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