表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その瞳を知れたなら〜令嬢と孤高の騎士〜  作者: シロクマシロウ子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/43

全ての真相

◇登場人物紹介◇(※主要人物以外を略称にしております)


◆セシリア・フィリス・リル・マースデン

               ……クレイモント大公令嬢

◆ジョージ・マースデン……クレイモント大公

◆フランチェスカ・マースデン……クレイモント大公夫人


◆アレックス・セイム・インダム……士爵位授与の元軍人


◆エリス・スミス……16歳になったばかりの貴族令嬢

◆マイケル・ダント……アレックスと暮らす孤児。9歳

◆ミカエル・ダント…… アレックスと暮らす孤児。9歳

◆マリー・ダント…… アレックスと暮らす孤児。6歳

◆フィン・ヴェルハイム…… アレックスと暮らす孤児。5歳

◆ソフィア・モントレー…… アレックスと暮らす孤児。4歳

◆シャビリエラ・トルドー…アレックスの部下の子供。3歳


◆カーク・ソーフォーン……ラトリッジ伯爵。元中佐。

◆ロゼッタ・マドウィック

  ……ダリントン子爵夫人。カークの妹。セシリアの友人

◆ヴィンセント・マドウィック……ダリントン子爵。


◆ティナ・ロッド……セシリアの側仕えの1人。

◆メリー・デニー……アレックスのマナーハウスの使用人。

 



 フロアでは、セシリアがアレックスとワルツを踊り始めた。クレイモント大公は目を細め苦々しい思いでそれを見つめた。

 不意に


「クレイモント」


 と玉座の階下から声をかけられた。


「ロズベルト」


 昔馴染みの懐かしい声に驚く。ロズベルト公爵はクレイモント大公よりまた少し年配だ。

 若い頃、兄弟のいなかったクレイモント大公にとっては、兄貴分のような存在で、様々な遊びや、領地管理については彼から教わったようなものだ。

 大公でこそないが、ロズベルト領も広大で裕福、しかも彼の身内はその多くが軍の上層部に勤めている。


 2人は久方ぶりに顔を合わせた。最後に会ってから8年ほど前になる。あれは────


「ソートン侯爵は気の毒だった。……あれからもう8年か。()()()()()()()()()は戦地から戻られたのか?」


 ロズベルト公爵は長男を亡くしているのだ。遊び人で、公にはなっていないが、重度のアヘン中毒となり 気づいた時には手遅れだったらしい。だが、彼にはまだ軍に次男と三男がいる。


「帰国の手続きは始まったそうだ。だが、" なんで兄さんを見殺しにしたんだ " と恨みのこもった手紙をよこしたのが最後だ。私の屋敷には娘共々近づこうともせん。それでも、生きている限りアイツがソートン侯爵さ」


 クレイモント大公はうなずいた。爵位とは宿命のようなもので、望んで得られるものでも、逃れられるものでも ない。

 突如、フロアで躍動する黄色のドレスの我が娘が羨ましくなった。女性だからできたこと────愚かで、だが、勇敢でもあることだ。

 横に立った旧友も、セシリアとアレックスを見ている。そして、口を開いた。


「セシリアは見る目があったと言うことさ、クレイモント。アレックス・インダムは賢いし軍からの溢れるほどの報奨金で財力もある。

 彼は領地の運営をして、本当にセシリアを守って生きていくだろう。────しかも、いざとなれば、あの男は狩りで食わせてロッジくらいなら建てれるヤツだ。

 もし私に宝物のように大切な娘がいたのなら、私は安堵(あんど)するね。インダムなら娘は何があっても幸せだろうと」


 クレイモント大公はロズベルト公爵を横目で見て言った。


「そういう問題だけではない」


「君の娘もそれを分かっている。────だから彼女は縁切りを望んだ。君達と、弟を守るために。自分を罰してすでに自ら勘当を言い渡したと言えば、マースデン家はお咎め無しだろう」


「だが、それではセシリアはどうなる?!あの2人は王室の力を知らない!」


 クレイモント大公は、その夜の中で最も感情をあらわにした。右手で手すりを叩き、左手で顔を覆った。


 ロズベルト公爵は立ち位置を変え、かつての弟分が嘆く姿を、来客から見えぬようにした。


「クレイモント、知らないのは君の方だ。アレックス・インダムは()()()()()。彼は通常3年かかる特殊訓練を2年で終えた。体術、軍刀術、射撃、爆弾、サバイバル、対個人戦、対集団戦の全ての項目で満点だった。実践では3年間で百以上の作戦に関わってきていて、あの勲章はほんの一部分でしかない。アレックスは一緒に組んだ味方が死んだ際の勲章は捨ててしまうから」


 クレイモント大公は信じられず、言った。


「そんな話は嘘だ……」


「嘘じゃない。貴族の間でも噂になっている板金加工工場の話題があるじゃないか。新聞に載ったヤツだ。工場は地下が軍事基地で、壊滅させるために向かったソーフォーン中佐の隊が到着する前に、アレックスが2人将校を倒していたと伝わっているはずだ」


 確かに耳にしたことのある内容ではあった。ロズベルト公爵は続けた。衝撃の真実を。


「アレックスが倒したのは2人じゃない。────敵兵全員だ。彼は1人で基地を全滅させた」


 クレイモント大公は目を見開いた。

 ロズベルト公爵の目を見て、真実だと理解した時、彼は立ち上がろうとした。


「なんて化物とセシリアを……!」


 だが、ロズベルト公爵はそれを留めた。


「化物ではない。聞けジョージ、基地では子供達がさらわれてきて働かされていたんだ。虐待も刑罰も拷問も行われていた。ある日1人の少年が殺されそうになって、アレックスは見ていられなくてその子を助けたんだ。それがきっかけになって、彼は基地内の敵兵全員と戦うことになった」


 クレイモント大公はまだ立ちあがろうとしていた。


「アレックス・インダムは戦場で、ありとあらゆる形で人々を助けてる。ラトリッジが彼に肩入れするのも、命を救われたからだそうだ。うちの次男坊の────"新しいソートン侯爵 " に至っては、実の父親の私よりも信頼できるからと、娘を彼に預けたほどだ。エリスという……私の孫娘だよ」


 ロズベルト公爵は老齢だが、若い頃に身につけた体術はまだ感覚を失っていなかった。彼は、大公を抑えつけながら微笑んだ。


「要はジョージ、アレックス・インダムは爵位もちではないが、ちゃんと本人に力と人望があるということだ。何よりそれを、()()()()()()()()。全ての事実がこの5年間軍から報告されているからな。

 実のところ、セシリアの想い人がインダムと分かれば、王太子は手を引いていたと私は思うね。処罰しようにも、捕まえようにも、返り討ちに合う危険性のある相手なんだ。

 それどころか、我が国と隣国の関係はまだ火がくすぶっているようなものだ。万が一にも再戦の可能性があれば、アレックスみたいな戦闘員は重要すぎるのさ。また育てるのに3年かかる。それでも、あれほどの逸材はもう無いだろうよ」


 クレイモント大公は立ち上がろうとするのをやめた。彼は息をついてから、公爵に質問した。


「再戦の可能性はあるのか?」


 ロズベルト公爵は声をひそめた。


「それをラッセル(ソートン侯爵)は探ってる。だが、結果がどうであろうと、アイツがどう王室に報告するか……私はなんとも言えんね。

 何しろアイツにとっての最愛の娘、私にとっての可愛い孫がインダムの世話になっているからな。

 だからまあ、君の気持ちは察しがついたと言うことさ、友よ」


 そうしてロズベルト公爵は豪快にガハハと笑い声を上げた。

 大公夫人が隣りの椅子からむっすりと言った。


「王室から(にら)まれないことは分かっても、社会的地位は?セシリアは大公令嬢で無くなったら馬鹿にされるわよ。可哀想に……」





             ◆





 ダンスフロアでは、『眠りの森の美女』のフィナーレが盛大に終わり、割れんばかりの拍手が起こっていた。気づけば、ほとんどの人達が踊ってくれていた。

 楽団員達から早くも


「おめでとう」「お幸せに」


 の声がかかる。

 セシリアは声援に応えて手を振った。

 見ると、指揮者とラトリッジ伯爵は一曲あたりの値段を交渉しているようだ。

 セシリアは、2人の前に進み出て、


「これで1ペンスでも安くなりませんか?」


 と言ってから、

 クルリと一回転して笑顔でウインクを決めた。


 楽団員達からは おおー!と歓声が上がり、指揮者は目をパチクリとさせた。ラトリッジ伯爵は爆笑している。アレックスが慌ててきて、


「それはやり過ぎ。やらなくていい」


 と、必死の形相で言った。


「だけど、これからはこういうことも大切になるのではないかと思ったのよ」


 セシリアは不思議そうだ。


「生活に困るようなことはないから、セシリアが値切らなくていい。あちこちでやって欲しくない。」


 そうしてアレックスが後ろから抱きしめてくれたので、セシリアは嬉しくなって、近づいた彼の頬にキスをした。

 彼は一瞬止まっていたけれど、すぐ我に帰ったようになり


「もう我慢してられるか…………!」


 と、セシリアの唇にキスをして、一度離してから今度は完全に重ねた。


 大広間は最高潮に盛り上がった!





             ◇





「大公夫人、セシリアは幸せそうですよ。とてもね。

 彼女は元々爵位の無い人を馬鹿にしたり卑下したりしてこなかった。だから本人がそれを失っても、恐れるものが無いのでしょうな。素晴らしいことだ。────では、失礼しますよ。大公閣下、大公夫人」


 ロズベルト公爵は馬鹿丁寧な お辞儀を、大きめにして 去っていった。


 大公夫人は


「なんて不適切な夜なの!!」


 と金切り声をあげた。


 だがクレイモント大公は、かみ殺しながらも確かに笑っていた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アレックス密かにというか…ホントは凄い人だったんですね!知る人ぞ知るという感じだったのかなー? でも、セシリアが悩んでいた日々も、それがあったからこそアレックスへの気持ちも深まっていたかもしれませんし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ