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その瞳を知れたなら〜令嬢と孤高の騎士〜  作者: シロクマシロウ子


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33/43

友情に包まれて

 


 ニ週間後────



「それじゃあ、エリスのことはお願いね」


 社交シーズンが近づき、私はロゼッタに正式にエリスのダンス指導を託した。王都に行けない親友は、やることができてとても喜んだ。


「兄やヴィンセントは議会があるから王都に向かうけれど、カーセルがダンスができるから大丈夫よ。私も彼と練習したものよ」


 カーセルは、ラトリッジ伯爵本邸の執事だ。紳士的でなんでも器用にこなせる。マナーハウスにはラトリッジ伯爵の叔母様も到着した。これでもう、なんの心配もいらない。

 ……いらなくなって しまった。


「兄の話だと……セシリア、サー・インダムは王都には行く気が無いようだ……って」


「そう」


 私は飲んでいたティーカップをソーサーに戻した。

 なんとなく、分かっていたことだった。彼は子供達を置いては行かないだろうと思っていた。


「セシリア……これからどうするの?王都に行ったら……その……」


 ロゼッタは言い(よど)んでいたが、縁談のことなのだとはすぐに分かった。アレックスとの間に未来が無いことを、誰よりも彼が思っていたと、ロゼッタには話した。


「今年は縁談は受けないわ。父と母にも言うつもりよ」


「だけどセシリア……」


「アレックスとどうにかなれるとは…………思っていないの。でも、今好きなのは彼。こんな気持ちでは相手にも申し訳ないと思うから、父と母にもなんとか分かってもらって、今シーズンでの結婚は見送ってもらうわ」


 ロゼッタは悲しげな顔をして、言った。


「サー・インダムは、あなたを最近は避けているんでしょう、セシリア?そんな人のために、あなたがシーズンや将来をとどめる必要はないのではなくて?」


 事実だった。足の捻挫(ねんざ)が治ってから何度かマナーハウスには行ったが、あのピクニックの雨の帰り以来、彼は朝の挨拶に来てくれなくなっていた。

 それでも────


「アレックスは知り合ったら、本当に素晴らしい男性だったの、ロゼッタ。私は今彼にしか恋できないし、彼に恋していたい。それが片思いでもいいの。他の男性はとても……とても、考えられないわ」


 本心だった。




 会えない日も

 避けられている日にも


 考えている いつも


 彼のことを




 あの日の 


 2人で笑い合った笑顔も 


 抱きしめてくれた ぬくもりも


 傷ついていた手のひらと 心も


 

 忘れられない 決して





「馬鹿みたいなのよ、私は────」


 親友を見つめて言う。


「彼の苦しみや背負っているものを、一緒に分かち合えたなら…‥って夢見てしまうの。綺麗なドレスでおめかしした自分よりも、皆に平伏されて顎をあげる自分よりも、ただ隣りにいた時にアレックスが安らげるような……そんな女性になれたらいいのに……そんな、夢をみるの」


 私はため息をついてから、頭を振った。


「こんな有様なの。とても今は無理でしょう?侯爵の妻も、公爵夫人も今の私はなれない。なりたくない」


「セシリア……」


 ロゼッタはハンカチを出して、目頭を押さえた。


「彼を愛しているのね。それは、愛 だわ」


 "愛している"


 言われて初めて気付かされる。ああ、そうなんだ。私は……


「そうね。私は……彼を愛しているのね」


 口にして涙が溢れた。ロゼッタは私を抱き寄せてくれた。


「……覚えていてセシリア。私はいつでもあなたの味方よ。あなたの幸せを願ってる。他の人があなたに望む幸せじゃない。あなたがあなたに願う幸せよ」


 ロゼッタの言葉は、私に(ゆる)やかに優しく染み込んだ。





             ◇◇





 ロゼッタに別れを告げて、私とティナはラトリッジ伯爵本邸を後にした。

 馬車の中で、ティナが珍しく自分から話しかけてくれた。


「お嬢様、すみません。廊下でお待ちしておりましたらお話が聞こえてきてしまいました」


 私は少し驚いた。例えそうであっても、侍女がそれを口に出すことは稀だ。

 ティナは言った。


「私も味方です。私も応援しています。お嬢様の恋を」


 私は胸が温かくなる気がした。


「ありがとうティナ。いつも、本当にありがとう。」


 私の言葉に彼女は首を横に振って、そして笑った。

 私は、ずっと聞きたかった話をティナにしてみた。


「以前から聞きたかったの。ティナは、どうやってミスターロッドと知り合ったの?」


「それは、こちらのお屋敷でなんです。ですが、私は屋敷で彼は納屋が仕事場ですから、始めの頃は…………」


 私達は、帰りの馬車の中で沢山話をした。


 ただ とりとめない、恋の話を。







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― 新着の感想 ―
ロゼッタもティナも優しいですね(^^) そうやって、自分のことだけでなく、誰かの幸せを望むことができる、応援してあげることのできるのは、もちろん自分に余裕があることもありますが、なかなかできないですよ…
案の定、サー・インダムはセシリアを避けだしたんですね。 ああ、切ない。(>_<) けれどもセシリアの気持ちが固まって本当に良かったです。 今後二人はどうなっていくのか非常に楽しみです。 シロクマさんの…
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