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その瞳を知れたなら〜令嬢と孤高の騎士〜  作者: シロクマシロウ子


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24/43

矢とご褒美の行方

 



 サー・インダムの 手から 矢は放たれた。


 瞬く間に 一直線に (まと)のある大木へ向かう────


 ドッッ


 と、次の瞬間には刺さる音がした。


「やったぁ!」「さっすが!」


 マイケルとミカエルの双子がそろって飛び上がり、喜んだ。

 でも、サー・インダムは首を横にふった。


「当たっていない」


 私とフィンは的まで見に行った。すると、確かに中心の赤い200点エリアに矢は無い。


「赤いエリアには……矢は当たっていません」


 私は、近づいてくるサー・インダムとマイケルとミカエルに教えた。落胆が、声に出ないようにしなければならなかった。


「でも つぎの あおい わくには ささっているよ。アレックス」


 フィンは背が低いので、つま先立って的を見上げながら言った。


「青だって100点だろう?」


 サー・インダムは言ったが、


「昨日変えたんです。いつも一緒だと面白くないので」

「青は150点に書きかえました」


 マイケルとミカエルは声を繋げて反論した。

 フィンが、私の両手に持つ石板を覗き込みながら言う。


「あ、いまってオレが20てん、ミカエルが90てんで、マイケルが110てんなんだ。それじゃあ、サー・インダムが150てんで トップだね」


「何を…………!」


 サー・インダムは前に出て確かめたが、実際、矢は青い150点部分にしっかりと刺さっていた。

 私は咄嗟(とっさ)に両手で口を抑えてしまった。石板はフィンが素早く受け止めてくれた。


 フィンは石板を持ったままミカエルのところに行き、ミカエルに石板を渡し、子供用の弓を同時に受け取った。


 振り返って彼は笑顔で言った。


「これで、オレが あかか あおに あてたら オレのかちだね。レディ・マースデン やくそく まもってね。

 ────アレックスそこ、はやく どいてくれないかなぁ?」





            ◆◇





 フィンは当然(?)赤い部分にも青い部分にも矢は届かなかった。


 私は────いくらなんでも気づいてしまった。


 サー・インダムは()()()()()()()()()()()()()

 青を100点だと思っていたから。

 彼は……負ける気だった。

 それが何を意味するかを考えるとどうしても気落ちする。

 例え、それが子供との競争への大人の対応でも。

 あるいは……


「じゃ、サー・インダムが(ひざまず)いたらいいんじゃないですか?そのままだと先生が届かないから」


「まあまあまあまあ、おでこが厳しければ、しゃがんでほっぺにキスなんかでも どうでしょう?」


 マイケルとミカエルは(はやし)し立てたが、サー・インダムの表情は硬かった。


「お前たち、大人を からかうのも いい加減にしろよ」


「あの、じゃあ "ワルツ" なんかはどうですか?」


 後方から声がして、振り返るとエリスとマリー、シャビーが来ていた。


「なんだって?」


 サー・インダムは 信じられないというような顔でエリスに聞き返した。


「先生とのレッスンで残っている課題なんです。他のダンスは私でもなんとなく想像がつくけれど、ワルツは最近の流行だから分からないんです。男女ペアだと言うし、サー・インダムと先生で、見せてもらえたら助かるなと思って」 


 そして、エリスは私と彼を交互に見た。


「これも "ご褒美" になりませんか?」


 フィンや、他の子供達の視線も感じた。私は、エリスが必死に考えてくれているのを感じた。それに、ワルツのレッスンに男性は本当に必要だった。


「いいわ……」

「踊れない」


 私の返事にかぶせるかのように彼の声が響いた。


「ダンスは踊らないし、ワルツなんか全然知らない」


 沈黙が広がったが、フィンが歩みでて


「アレックス、じゃあ おでこにキスで いこうよ」


 と軽い感じに笑みを浮かべて言った。


「からかうなと言っただろうが!!」


 怒鳴り声で返されてフィンが萎縮(いしゅく)するのが分かった。私は黙っていられなくなった。ありとあらゆる意味で──


「子供達を怒らないで下さい、サー・インダム。みんな、遊びに来てふざけているだけです。心配なさらなくても、あなたとダンスもキスもしません」


 言った途端に後悔が湧く。

自分にとっても彼にとっても良くない言葉だ。

 その日初めてしっかりと見つめ合ったスカイブルーの瞳には、動揺が映っていた。

 

 自分の瞳は何を映しているんだろう?


 願うだけだった。


 ────どうか、彼に この傷ついた心が見透かされませんように



 重苦しい空気の中 誰もが動けないでいた。

 が、遠くからの声がそれを破った。


「お嬢様!!サー・インダム!!」


 ティナの声だ。スイセンを踏み荒らしながら、ティナがこちらに駆けてくる。息を切らしながらも。


「どうしたの?ティナ!」


 その様子に何かを感じて、まだ距離があっても私は大声で聞いた。

 ティナは切れ切れの息の中でも叫んだ。



「ソフィー様が……ソフィー様が どこにも見当りません!」



 







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― 新着の感想 ―
子どもたちの「良かれと思って」が完全に裏目に出てしまいましたね。 ところで、ソフィーは何処に行っちゃったんでしょうか!?
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