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その瞳を知れたなら〜令嬢と孤高の騎士〜  作者: シロクマシロウ子


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20/43

それぞれの想い

 



 子供達用のブランコは、マナーハウス南棟の空き地に順調に出来上がってきていた。

 ブランコ本体を支える支柱が両端に組まれ、その上に加工した丸太を橋のようにかけて固定しておく。そこに、4台のブランコが吊るされることになっていた。

 他に小さな家のような休憩所や、砂場も作られる予定になっている。

 完成したら 子供達は身体を動かしたり、ままごとをしたりして 楽しく遊ぶだろう。


 ブランコの座席部分にヤスリをかけながら、アレックスは午前中のあのセシリアの潤んだ瞳を思いだした────





 彼女のことは、ただ気位の高い貴族のお姫様だとばかりに最初の頃は思っていた。

 自分のような身分の男のことは嫌っているだろうし、軽蔑しているのだろう と。

 だが、彼女は職人達にフィッシュ&チップスを届け、子供達には菓子を持ってきてくれた。

 そして、今はエリスのことを助けてくれている。



 ブランコの座席用の板は、ヤスリをかけられて四隅が丸みを帯びてきた。次は、紙ヤスリをかけて仕上げをする。




 エリスのマナーレッスンをレディ・マースデンに頼めた時には、この上なく良い案だと思った。

 だが、今は本当に良かったのかは……分からなくなってきてる。



 アレックスは大きくため息をもらした。



 エリスにとっては最高の先生だ。それは間違いない。

 子供達もなついて、とても喜んでいる。

 だが、自分にとっては──── ?


 答えは分かっている。

 ()()()()()だ。何もかも。血筋、家柄、地位、財産……それから性格や頭脳、外見や振る舞いも。


 だから考えるな、何も。

 人形のように整ったスタイルも、細く美しい指先も。黄金の流れるような髪も、子供達といる時のあの屈託のない輝かしい笑顔も。それから愛らしいチョコレート色と焦茶色の(ひと)………いや、違う違う違う違う違う!



 彼の、紙ヤスリを動かす手は一際大きく、激しくなった。



 考えず、何も言わず、距離をとって、近づくな!

 近づいたところで、どうにもならない相手だ。



 アレックスの紙ヤスリをかける手を見ていて、棟梁は たまらず声をかけた。


「サー・インダム。そんなにヤスリかけましたら、ブランコの座席がツンツルテンになって、子供達がみんな落ちちまいますって」






       ◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◆◆






 その頃子供達もまた、子供部屋でセシリアについて話し合っていた。


「せんしぇが 来なくなっちゃったら どうする?」


 ソフィーは、ソファに座るエリスの膝の上にいたが、もう泣きそうだ。


「大丈夫だろ。あれくらいで来なくなるなんて、まさか」


 ミカエルは明るく言ったが、妹のマリーに反論された。


「レディ・マースデンは青ざめていたわ。サー・インダムに笑われて悲しかったのよ。来れないと思っているのかも」


「大公令嬢 だからな」


 マイケルがポツリと言った。フィンは


「たいこうれいじょうって、おとなの おとこに わらわれたら だめなの?」


 とエリスに向かって聞く。

 みんながエリスをじぃっと見つめた。ソフィも首をそり返して真後ろにいるエリスを逆さまに見ている。

 エリスは、悩みながら答えた。


「笑われたら駄目って決まりはないと思う。だけれど大切なのはレディ・マースデンがどう思ったかじゃない?逃げるように帰ってしまわれたから……サー・インダムに笑われて嫌だったことは確かよ」


 そして、エリスは一息ついて 言った。


「もう来ないかも。嫌なことがあったんだもん」


 ええ────っ という声と共に、落胆のため息が重なっていく。


 ソフィーはほとんど泣きながら言った。


「せんしぇは あれっくすが いやなの?」


「貴族の中じゃあ、ほとんど貴族とみなされていない低い爵位だからな」

「あんなデカい体で幽霊怖がってるし」

「辛いの苦手だし。ピーマンよけてるもの」


 みんなの言葉で、ついにソフィーは泣き出してしまった。


「ピーマンの せいで あれっくす モテない〜〜〜っ」


 うぇぇええんと、泣き声は続く。エリスが後ろからソフィーを抱きしめる。


 少しの間、泣き声だけで、誰も何も言わなくなった。


 やがて頬杖をついて考えこんでいたフィンが、腕組みに姿勢を変えて言った。


「オレはアレックス カッコイイとおもうけど」


 それから、彼は続けた。


「だから すきになってもらおう、アレックスを。たいこうれいじょうに」


 フィンは満面の笑みだった。

 ソフィーはそれを見て、とりあえず泣き止んだ。











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― 新着の感想 ―
よく言った子供たち! アレックスは……悲しいなぁ。
子供の会話が可愛いし可笑しい! なんだかこの身分さがありすぎる2人は、子供たちが取り持つ縁で上手く行きそうですね。 (*^。^*)
アレックスも少しずつ惹かれて言ってるのを気づいてたんですね。 子供たちはお菓子のためもあるかもですが、頑張ろうとしてくれてますね(^^) それにしても、手作りのブランコすごいですね♪ 僕小さい時は…
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