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遠い人

こちらが第2話になります。

 



 ラトリッジ伯爵は、真剣な面持ちで話し始めた。


「将軍から、国境近くの板金加工工場が軍事基地として使われているようだと情報が入ったんだ。だが、まだ可能性と言うだけで調査が必要だった。

 それで、特務曹長だったアレックスに白羽の矢が立った。

 一般労働者に紛れ込んで一人で潜入し、彼は武器製造の事実を確認した。その情報を我々に送った後も工場内に残り、攻撃した際には中から撹乱(かくらん)してくれたんだ。

 おかげでこちらは、ほとんど被害が無かった。合流した時、彼は敵の将校を2人消してもくれていた」


 テーブルにいた全員が、館の主人(あるじ)の話に聞き入っている。


「やがて、我々の潰した工場は 地下にも大規模に展開されていて、敵の武器供給の重要拠点だったと判明したんだ。

 実際に、それから我が国は優勢に転じ 勝利に繋がった。

サー・アレックス・インダムは間違いなく我々の英雄だ」


 私は手を握りしめて、ラトリッジ伯爵にうなずいていた。

 彼はやっぱり素晴らしい方だ。有能で勇猛果敢だ。

 でも、向かいに座っていたドナルテ子爵夫人は、眉をひそめて尋ねた。


「ラトリッジ様、つまりサー・インダムは将校を殺したと?そういうことですわよね?」


 それに対して、伯爵は冷ややかな眼差しで夫人に言葉を返した。


()()将校を です。戦場とはそういう場所ですので、子爵夫人」


 ドナルテ子爵は、妻をかばうつもりでか、慌てるようにして発言した。


「ラトリッジ、妻は内気なものだから血生臭い話を怖がってしまうんだ。そら、レディ・マースデンもそうでしょう?!

 大公閣下のご令嬢は、戦場の野蛮な行為の話などお気に召さないはずだ」


 勝手に決めつけられて、私は唖然とした。次の瞬間には、ラトリッジ伯爵と…………そして、テーブルの反対側の端から、アレックス・インダムの冷たい……視線が向けられているのが分かった。


「私はそのようには思ってはおりません」


 テーブルの上の両手を重ね、冷静な声を絞り出す。

 本当は立ち上がって金切り声で叫びたかった。


 " 私は彼を野蛮だなんて思っていない!! "


 と。

 だけど、伝わったのは動揺だけだ。誰も、きっと信じてくれてはいない。


 テーブル中央に座っていた、デル牧師が場を(なご)ませようと


「女性達には怖いお話なのでしょう。でも、サー・インダムやラトリッジ伯爵様のおかげで、我が国にやっと平和が訪れたのです。私は、兵士の方々には神の祝福があると思いますよ」


 とおっしゃってくれた。

 それで、みんなが微笑んで、パチパチと拍手も起こった。

 ラトリッジ伯爵とアレックス・インダムに向けて。


 私も心からの拍手を送った——送ったのだけれども、届いてはいないのは明らかだった。彼は全く目を合わせてくれなかった。……チラリ とも。


 ただでさえも、

 この長いテーブルの端と端のように離れていたのに


目には視えない距離までもが 大きく広がったのを感じた。




 この先もきっと

 これ以上近づくこともなく

 ただ離れて行くだけなのだろう



 私と彼が……近づくことなどない


 彼は私の笑顔を見ることも無いだろうし


 私が彼の瞳の色を知ることもないのだろう




 私はパチパチと手を叩きながら考えていた。


 届くことのない拍手を贈りながら————








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― 新着の感想 ―
お話に広がりが出て来ましたね。 こういう戦いみたいなのが含まれるお話好きです。 そういう戦場をくぐり抜けてきた心身共に逞しいアレックスと凛としたセシリア、それにこのすれ違いのような距離、良いですね。
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