楽しいお茶会
「いつの間にそんなに進展していたの?!」
親友の大声に、私は慌てて訂正した。
「そんなんじゃないのよ。進展とか、大それたことではなくて。ただ定期的に通う機会ができたということなの。子供達とエリスのおかげで」
ロゼッタは大きく うなずいてくれた。
「エリス・スミス……ね。"スミス"はあちこちで聞くから、偽名の可能性もあるかもね。娘にもそこまでさせているとしたら、一体なんのお仕事をしているのかしら?」
私の方が首を振る。
「ロゼッタ、そこは首を突っ込むのはやめた方が良いわ。この国は先日まで戦時下だったんですもの。私達の知らないところで、軍の方々が動いていても国防のためと信じてあげるしかできない。きっとエリス自身がそうしているのよ。どんなに父親の身が心配でも」
ロゼッタはチョコレートケーキを口にしていたので、飲み込んでから口を開いた。
「了解。いつか私がエリスにあっても、父親の職業には触れないようにするわ。……でも、会ってみたいわね。ね、連れてきてよ。」
「ロゼッタがいいなら、そのうち本当に連れてこれるわ。
遠くもないし、あなたのお兄様がエリスの後見人に決まっているんだもの。むしろ会っておいて良いかもしれない」
私も、そうしてチョコレートケーキにフォークを通す。妊娠しているロゼッタのためにブランデーは抜いてあるそうだが、挟まれたラズベリージャムがアクセントになって、充分に美味しい。
「マナーレッスンは続いているの?」
ロゼッタの質問に、今度はうなずけた。
「問題なく。カーテシー(お辞儀)の足の間違いは修正できたし、三段階の角度の違いと、使い分けを身につけたわ。今は背筋を真っ直ぐと伸ばした歩き方の練習」
「本を頭の上にのせて?」
「そう、本を頭の上にのせて」
ロゼッタの瞳はいたずらっぽく輝いた。
「やるわよね、アレ。セシリアは何冊までいけた?私は8冊!姉妹でも最高よ!9冊目もやろうと思えばできたのよ。でも単純に頭が重いの。特に後半はクラリスが辞書ばっかり持ってくるから。あの負けず嫌い!」
クラリスはロゼッタのさらに4歳上の姉だ。私は笑いながら返す。
「私は何冊も重ねたりしなかったの。競い合う姉妹だっていなかったから」
「そう、そうよね。……だけどサー・インダムともこれでだいぶ親しくなれるんじゃないの?やったわね」
ロゼッタはニコニコしながら言ってくれた。私は、少しだけ微笑んだ。
「行った日の朝は、いつも来て下さって挨拶してくれるの。帰りは、顔を合わせられたら、という感じ。一度だけ、ラトリッジ伯爵が後見人に決まったことと、お目付け役も探してもらえるというお話をしたけれど……上官への報告みたいな感じだった。」
聞いているロゼッタの顔から笑みが消えていくのが分かった。
「でも、いいのよ。挨拶できるようになっただけで嬉しいの。顔が見れるようになったし、瞳の色も分かったから。
とても綺麗な、明るいスカイブルーだった。だから、晴天がますます好きになったわ。
エリスは私を" 先生"って読んでくれて、私は彼女や……サー・インダムの役に立っているような気が今しているの!だから、最近は毎日がとっても楽しい。まるで、大公令嬢とは別人になれたみたいに」
私の話に親友は何度か まばたきをして、それから私を抱き寄せた。
「ああ、セシリア……。あなたが楽しくしているなら、そう、そうよね……良かったわ」
彼女の声があまり真剣だったので、私はかえって笑ってしまった。
「どうしたのロゼッタ?まるで母親みたいよ」
その言葉にロゼッタも笑い出し、私達は抱擁を解いた。
それから、私達は今年の社交界の予想や、ロゼッタの子供について想像して話したりした。
お茶の時間が終わり、身重のロゼッタの見送りは断って、私はティナと部屋を出た。
扉が閉まる直前にも 私はロゼッタに手を振り、彼女も振り返してくれた。
私は知らなかった────
閉められた扉を見つめながら、
親友は瞳に涙を浮かべていたことを。




