旭川にて(前半)
三話投稿しました。
最後まで読んでいただけたら幸いです。
車窓の外、舞い落ちる雪が静かに流れていく。それは、遠い夢の断片のようだった。
「はい、これ」
霞が差し出したコンビニのお茶とおにぎりを、弥生は受け取る。
車内は暖房でぬくもりに満ちていて、冷えきった身体がじんわりとほどけていく。
ジャケットに残っていた雪が解け、じわりと染みを作っていた。
おにぎりの包みをはぎながら、弥生が言う。
「ツナマヨ、わたしが好きなの知ってたの?」
「いや、なんとなく。……っていうか、ツナマヨ好きなんだ」
ツナマヨにかぶりついた弥生の横顔を見て、霞は小さく笑う。
むぐむぐと食べている弥生。
何をしても品がある人だなあ、と霞は感心する。
それにしても、おいしそうに食べる。ツナマヨ、そんなに好きなんだな……。
霞も、ほっこりした気分で昆布のおにぎりにかぶりついた。
弥生はすでに二個食べ終え、お茶を一口飲んで、ふうと小さな息を吐く。
ふたりともお腹がほどよく満たされ、車内の暖かさに包まれて、自然とうとうとし始めた。
旭川に着くまでには、まだ三時間ほどある。じゅうぶんに眠れる。
「眠い」
その言葉と同時に、弥生が霞の肩にもたれかかってくる。
霞は少し驚いたが、起こさないようにそっと目を閉じた。
まぶたを閉じるその瞬間、弥生の長い睫毛がふるえているのが見えた。
霞は静かに呼吸を整え、深い眠りに身をゆだねていく。
*
旭川の手前、和寒を過ぎたころ、霞は目を覚ました。
「義姉さん、もうすぐ着くよ」
「ん……」
「あと二十分くらい」
「ん、起きた」
弥生は軽く口を抑えて伸びをし、小さくあくびをする。
「早く服、着替えたいわ」
「だね」
ふたりは自然に笑い合う。
そのとき、車内に旭川到着のアナウンスが流れた。
窓の外には、白く煙るような街の風景が近づいてくる。
霞と弥生は、目を見合わせ、小さくうなずいた。
旅の続きを確かめるように。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
読んで少しでも面白いと感じてもらったら幸いです。
三話の後半、がんばります。