凍てつく夜
はじめまして、創生悟と申します。
初投稿です。
北の地・稚内から、特殊な力を持った義姉と義弟の静かな逃避行が始まります。
ゆっくりですが投稿を続けていければと思います。
どうぞよろしくお願いします。
気温は氷点下。日が変わる少し前の時間。
人気のない暗い道を雪が舞う。
稚内の外れにあるビジネスホテル。
その狭い一室、テーブルの前に一人の女性が座っていた。
彼女の存在だけが異質に浮かび、腰まで届く漆黒の髪が、異質さを強調した。
少しやつれて見えるが信じられないほど柔和で美しい顔立ち。
その目には静けさと強さを感じさせた。
彼女はふと顔を上げる。
漆黒の中にわずかに青みがかる髪がさらりと揺れた。
音もなくドアが開き、少年が部屋に入ってきた。
「義姉さん、ただいま」
少し無精な髪に隠された少年の容貌は、幼さを残しながらも驚くほど整っている。
鼻の横一文字の傷跡、落ち着き払った物腰が、齢以上の経験、ただの少年ではない。
かすかに息をつき、彼女は少年に「早かったね、寒かったでしょう」と声をかける。
静かな弥生の声に、少年は笑みを浮かべ「大丈夫」と笑った。
霞はコンビニ袋から、次々に温かい食べ物を取り出し並べていく。
セイコーマートのロゴが、ふわりと揺れた。
「サラダ、なすの揚げびたし、おにぎり、・・・、コーンポタージュ熱いから気を付けて」
霞の手が差し出した缶スープはまだ熱いくらいだが、弥生は冷え切っていた両手でそれを包み込む。
手が少し暖まり、缶の向こうに世界のぬくもりを感じた。
弥生は缶を包みながら言った。「ありがと、たくさん買ったのね」
「施設で食べれなかったでしょ。いっぱい買ってきた」
霞はテーブルに並べた食料を見ながら、にこりと笑った。
霞は、テーブルに目を落としながら呟いた。
「シベリアで、全部使い果たしたんだ。“力”……九割以上、ほとんど無くなっちゃった。だから、研究所に入るのに手間がかかっちゃったんだ」
缶を握る弥生の手に力が入る。「神殺し」---かつてそう呼ばれた彼が、今ここにいる不思議を思った。
弥生はスープを飲み「なんか落ち着くわ」缶を握ったまま、義理の弟に微笑む「本当にありがと助けに来てくれて。もう研究所から出られないと思ってたの。能力も無効化されたし」
「うん、なんで義姉さんが捕まったのか不思議だったんだ。まさか無効化されるなんて。無事でいてくれてよかったよ」
「そうね。あなたが来てくれなかったらどうなっていたことか。」
外の風が窓を打つたびに、ホテルの建てつけの悪いガラスがわずかに軋む。
「里のみんなはさっき聞いた通り、皆・・・」
「うん」弥生は下を向き、霞は「そうか」とつぶやいた。
「あなたこそ、今までどこにいたのよ。シベリアの戦役が終わっても連絡がないし、軍に聞いても何も教えてくれなかったのよ」
「うん、シベリアで気を失って気づいたら異界にいて・・・やっと戻れた。半年かかったよ」
弥生は目を見開いて「よく無事だったわね。本当に良かったわ」
異界から戻った人の話を聞いたことは無く、異界がどのようなところかも全く想像もつかない。
そこから戻ったなんて、本当にこの子は。よく、戻ってくれたわ。
「びっくりしたよ。戻って里に行ったら、何もなくて廃墟で。義姉さんの足跡をたどるの大変だったよ」
二人は、食事をとりながら、ゆっくりと会話する。
その夜、ふたりはまた歩き出す。
世界の終わりの少し手前から。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
一話目は二人が再会してからの、始まりです。
これから二人の旅がどうなるのか、自分でも楽しみです。
次回もなるべく早めに投稿できるようにがんばりますが、遅筆なのはご容赦くださいね。