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女神は微笑む人を選ぶ

 東の果ての辺境の村にて、最強が誕生した。

その赤ん坊の産声はとても幸せそうに笑っていた。自分は神に祝福され、全てを手に入れたのだと彼は喜んだ。

 しかし彼は賢かった。神に祝福されたからといって自分が神になれるわけではない。それに絶望するのと同時に彼は冷静になり、産声をあげるのを止めた。


「あら、この子とっても元気に笑ったと思ったらずぐにおとなしくなっちゃったわね。」

「面白い子だね、でも何だか哀しいような何かに絶望するような顔をしているようにもみえるね……。」

「……!ね、この子……!眼が!」

「眼……?…あ!これは!!」


その夫婦は目と息を合わせてその名を口にした。


「『女神の刻印』だ……!」


夫が慌てるように口を開く


「こ、この素晴らしい子どもに相応しい名前を!」

「そ、そうね!じゃあ…あの昔話の偉大な王様から『カール』なんてどうかしら!」

「あぁ!いい名前だ!『カール』!産まれてきてくれてありがとう!」


それから1年後、彼らが住まう東の果ての村に龍の巣からはるばるドラゴンがやってきたのだ。

村人たちはそのドラゴンがどれほどのものか知っており、この状況に彼らは神に祈りをする者や龍に命乞いをする者までおり、混沌としていた。


「騒がしいのぅ……。たかだか我が遠くから噂のガキを見に来たというだけなのに……」


その言葉に村人たちはポカンと開いた口がふさがらなかった。


「聞こえたのならそのガキをさっさと拝ませんか!」

「は、はいぃ!」

「こ、この者が龍様もお聞きになられた『カール』でございます!」

「ふむ……」


先程の大人たちとは対照的にすやすやと眠っている赤ん坊を龍はなめるように目を泳がせた。

龍は『女神の刻印』があるという眼が開くのを今か今かと注意深く見ていると、カッとその眼は開き、魅せてやろうと言わんばかりに赤ん坊のカールは龍の鋭い眼を見ていた。


「このガキ……!産まれて年月が経っていないというのに、この恐ろしさはなんなのだ!」

「「お前には興味ない。残念ながら。」」

「……。認めよう……。お前はこの世で()()()()()()()()()()()()()()として、我の記憶に永遠に刻まれるだろう。」


そういって龍は後ずさるように村を飛んで去っていった。


「一体何だったんだ……?」

「あの子どもに龍は恐れをなした……?」

「お、おぉ!!カール!!カール!!」


村人たちは龍が来てたった1人の赤ん坊に敗北した日を『退龍記念日』として制定し、宴をはじめた。


その後カールは3歳でこの世界の半分ほどの魔術を習得し、4歳で史上最年少かつ史上最強の魔法使いとして名を轟かせた。

彼が5歳のとき、()()()はカールに祝福を与え過ぎた神を血眼になって探した。


「やはり、【強欲神(カタ・マカン)】……そなたであったか。」

「あぁ、あれか、人の子に沢山『祝福』しちゃったやつね。」

「禁忌と分かっているのだろう?我々が人の子に『祝福』を与えて良いのは2つまで……。だが、そなたは『カール』という者に

何と2000以上もの『祝福』を与えているではないか!」

「なんだ、説教か? ルールを破るってわかっててやるのがいいんだよなぁ。あれ」

「……そなた、()()で何人目だ?」

「3かな。まぁでも、あんだけやったのは彼が初めてだよ。」

「……今後のそなたの神としての命が無いことは承知の上とみて良いのだな?」

「はっはっは!『命が無い』だって!? 僕は強欲の神だぞ!全てを欲する神だぞ!不老不死なんてとっくに手に入れたさ!」

「馬鹿な……!神でさえ10万と持つ者は少ないのだぞ…!」

「あぁそうだ……【憤怒神(ク・マラハン)】。君は怒りの執行者として、断罪者として神をやっているだろうけど……君の終わりは、人間の怒りによって断罪される。」

「貴様ぁ!」

「ははっ!皮肉な最期を存分に味わってくれよー。」


一方カール達の村では別の神が突如として現れた。


「な、なんだこの化け物!」

「私たちの村を襲いに来たの!?」


その神の見た目はそこらの魔物よりも何十倍も異様な見た目をしており、神というよりは異形な化け物だろう。


「【強欲神(カタ・マカン)】の子…寄越せ…。」

「か、かた……?誰だよ…、ていうかお前はなんなんだよ!」

「余は【怠惰神(クラマ・サン)】…。子の名は『カール』…。寄越せば…何もせん…。」

「カールだって?あの子はお前みたいなやつなんかに渡すか!」

「そうよ!クラマだかクマだか知らないけどね、あの子は私たちの大切な村人なのよ!」

「交渉決裂…。了…。」

「ふん、わかったなら、冷やかしは帰った帰った!」

「燼滅計画…始動…。」


のどかな緑に包まれて、活気に溢れた村は一瞬にして紅いの炎に燃やし尽かされ、灰へと変わった。


「……カー…ル……ごめん……ね。」

「かぁ……さん?」


母親は最期にそう言い残し、村の灰の一部となってしまった。


「目標…発見…」

「おまえがやったのか?そうだよなぁ!」

「殺戮開始…。」

「おまえがころされるんだよ!『破滅の十字架(バーサーカークロス)』!!」

「…重傷…てった…」

「『死封神莱()』」


クラマ・サンは跡形も無く消滅した。『死封神莱()』はどんなものでも一撃で葬ることができる術だが、ゼロ距離かつ相手が格下でなければならず、発動した代償として感情が何か一つ消え、それが戻ることは二度とない。


「……さっきまで、あんなに怒っていたのに、今は何ともない……。家族って、……どうでもよかったのかな。」


灰と化した村だったものに何か希望は無いかと目を探らせてみるが、希望は無かった。


「あれ……涙が……。」


その少年は全てを持って産まれたが、たった5年でその殆どを失ってしまった。



あの惨劇から15年。かつてカールが住んでいた村は一夜にして謎の壊滅をしたとなっており、学者たちの中で調査が進められている。

誰が何の目的で……。それを知る者はカールしかいなかった。だが、彼は行方不明者としてこの事件とともに闇の中に消えてしまったのだ。


「あー、……釣れない。」


釣りをしているのはカハジーヌ。少々強気な性格の26歳、バツイチの女性だ。茶髪のポニーテール、青色の眼、顔に傷跡があるのが特徴である。


「なぁー君の魔術でちょちょいっと大漁にお願いできないかい?」

「釣りというのは一匹一匹と真剣勝負するから面白いんですよ。」


問いに応えたのは20歳になったカール。彼はカハジーヌに引き取られ、南の彼方の地『オフスタリア』で彼女と2人で暮らしている。


「ちぇ、じゃあ今日も魔物の串焼きか……。」

「またゲテモノですか……。それは嫌なので魚にしましょう。『滝柱(たきのぼり)』」


川の水が重力に逆らって柱を形成し、魚たちを打ち上げた。


「おぉー!大漁、大漁!」


夕食に先程手に入れた魚を焼いて食べた。カハジーヌはどこから手に入れたのか分からない新聞を開き、それによく目を通しながら食事をしていた。


「……良い知らせと悪い知らせがある。」

「悪い知らせから聞きたい気分ですね。」

「……お前の故郷の調査が打ち切られた。つまり今日からお前は死亡扱いだ。」

「ははっ。いつか……こうなると思ってました。良いお知らせを聞かせていただけますか?」

「今日から新しい仲間が増えるぞ。」

「え?」


間もなくして足音が聞こえ、徐々に大きくなってくる。その方を振り向くと、緑色のサラサラ長髪に陰鬱そうな顔をした男がこちらに向かって歩いていた。

男は立ち止まって少し間をあけて口を開く。


「うぃ〜。ガラクでぇ〜す。おなしゃ〜す。」


2人はイメージと合わない自己紹介に困惑していた。だが、カハジーヌはその個性をすぐさま受け入れて歓迎した。


「はっはっはっ!びっくりしたよ!ガラクくん。私はカハジーヌだ。今日からよろしく頼む。」

「あ、俺はカールです。よろしくお願いします。」

「あぁ~、君が噂のね。ど〜れどれ……。ふむ。多少の欠陥があるけど〜、それを祝福の数で補うどころかそれすらも味方につけるとは。すごい実力の持ち主だね〜。『女神の刻印』もあるし〜。」

「俺の力が分かるんですか?」

「このガラクの眼は何でも御見通しさ〜。」

「そこは謎のままなんですね。」

「ま、交流会はこの辺にして、本題といこうか。」


カールとガラクはカハジーヌの方に体を向ける。


「じゃ、早速ガラクくん。何で私たちのところへ来たのか説明してもらおうか。」

「は~い。ガラクがここに来た理由は、……『神』を見つけたからだ。」

「『神』ぃ……!?まさかとは思いましたが、複数いるなんて……!!」

「こりゃあとんでもねぇビッグニュースだなぁ。」

 用語解説は最終話で行います。

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