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Take On Me 3  作者: マン太
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その後1 ラーメン店主

大和、岳、七生が主なお話しです。

 七生の送別会及びお疲れさま会が、真琴の友人が経営しているレストランを貸し切って行われた。

 こじんまりとした、洋食レストランだ。

 参加したのは、俺と岳、真琴に亜貴、祐二に藤。後はスタジオ・キタムラに務めるスタッフ三人。

 ただただ、気楽に楽しく、愉快に時間は過ぎて行った。


「今日は本当にありがとうございました」


 会が終わり店の外に出ると、七生が声をかけてきた。俺は会計を済ませていたため、皆より出るのが遅れたのだ。


「七生も、お疲れさまだったな。こっちこそ、色々助かった。…ありがとな」


 真琴や亜貴、スタッフらの背中は既に遠くなっている。二人は先に帰ると言っていた。藤の姿は等に見えなくなっていて。


 岳は──。


「七生は次の仕事はいつ始まるんだ?」


 同じく出てくるのを待っていた岳が声をかけた。岳は手にしていたマフラーを、俺の首にキュッと巻きつける。


「来週からです…。厨房とウェイターもやるので、きっとバタバタです」


 俺はその言葉に身を乗りだす様にすると。


「そっか。忙しくなるな…。じゃあさ、忙しくなる前に、行くか? 当分、休みらしい休みも取れないだろ?」


「行くって?」


 キョトンとする七生に俺はニッと笑むと。


「約束、したろ?」


「約束?」


 で、俺は岳も引き連れ、とある場所に向かった。



「ヘイ、いらっしゃい!」


 店内からは威勢の良い声が聞こえて来た。


「ここか…」

 

 岳が暖簾を前にややうんざりした表情を見せる。殆ど毎週顔を出しているのだ。流石にまたか、となるらしい。


「ここ…」


 七生がじっと暖簾を見つめる。そこには『ラーメンまき屋』とあった。


「約束したろ? 牧のラーメン、食べようって。当分、時間作れないだろうし。もう、食えねぇか?」


「そ、そんな。食べられますっ」


「よしっ! じゃ、行こうぜ」


 何処か七生が涙ぐんだ様にも見えたが、気の所為だろう。


+++


 暖簾をくぐり、引き戸を開けると、


「いらっしゃい!」


 威勢のいい声が響く。


 こいつ、声だけは男前何だよな。


 牧は俺と同じく、三枚目な奴なのだが、声だけ聴くと、どこの俳優か、バリトン歌手かと思うほどいい。低くて響くのだ。


 俺と同じ、ちびっ子キャラの癖に。


「──って、大和かよ…」


 俺の姿を認めて、うんざり顔になる。すっかりヘアスタイルは以前のスキンヘッドに戻していた。つまらない。


「んだ? 岳もいるし、今日はお客、連れて来たんだ。入れよ、七生」


「は、はい…」


「客?」


 おずおずと遠慮がちに入って来た七生は、ゆっくりと牧に視線を向けた。

 そこで、バチリと牧と目が合う。途端に七生の頬がボボっと赤くなった。

 俺は、はて? と、首をかしげる。


「…ンだよ。カワイイ女のコじゃねぇのかよ」


 牧は特に反応も見せず、そう言うとまた手元に視線を戻した。てか、七生をひと目で男子と見抜くとは。

 大抵、一度は性別を確認されるのだが。


「おい、中、入れさせろよ。寒い…」


 岳が外で震えている。


「ゴメン、ゴメン! 七生、奥行けって。遠慮しなくていいから。ホラ」


「は、はい──」


 俺は七生をぐいぐい奥へ押し込むと、暖簾をはぐって岳を招き入れる。

 カウンターには、奥から七生、俺、岳の順に座った。各々、マフラーやコートの類いをハンガーに掛け、ラーメンを注文する。

 お品書きは半ば一択だ。

 ラーメン、チャーシューメン。以上。

 後は麺の硬さや脂の多さ、麺の追加、トッピングの種類が書かれている。

 俺はいつも麺硬め、脂は普通、味玉追加で後で一玉追加したりしなかったり。

 岳は麺は普通、脂少なめ、味玉追加。脂はそろそろ気をつけないといけない年齢らしい。

 てか、岳、贅肉ないのはそういう気遣いもあるからか。


 うーん、にしてもいい香り。


 俺と岳は、いつもの、で通ってしまう。


「七生はどうする? 普通で行くか?」


「は、はいっ」


 注文を済ませても、七生は席についてからずっと下を向いていた。顔も赤いまま。


 なんだ?


 すると、隣の岳が肘をつきながら。


「七生。分かりやすいな…」


 そう口にした。


「へ? 何が?」

 

 俺は岳を振り返る。岳は更に身を乗り出すと、


「あんなのがいいのか? 結構、昭和だぞ?」


 ニヤニヤ笑う。


「え?! っと、良いって言うか、そんな、おこがましくて…」


「何、二人だけで分かりあってンだよっ」


 俺は二人の間に、割って入る。すると、岳は俺の額にデコピンをかまし。


「って!」


「ヤキモチ妬くな。七生の明るい未来について、話しているんだ」


 そう言って、俺の腰を抱いて引き寄せると、こめかみにキスを落とした。

 流石、岳。フォローを忘れない。


「あ、明るい未来って?」


「…じきに分かるさ。七生はこう見えて積極的だからな? 牧は真剣にぶつかれば、落とせない相手じゃない。それに、一途だ。懐に入ればきっと大事にされるさ。──大和の件といい、見る目あるな?」


「そ、そんな…」


 七生は泣き出しそうな顔になる。


「やっぱ、全然、わかんねぇ! 何で牧が出てくるンだよ?」


「後で教える…」


 耳元で囁くと、にっと笑んで見せた。


+++


その後。ラーメンを食べ終わるまで、七生はずっと真っ赤のままだった。

 さて会計となった段、おつりを受取り店を出ようとした際、七生は突然、出かかっていたのを振り返って。


「あの、美味しかったです! また来ますっ!」


 そう牧に向かって半ば叫ぶように言った。

 一瞬、キョトンとした牧だったが、すぐ満面の笑みになって、


「おう。七生、よろしくな!」


「……!」


 そこでまた、ボンっと音が聞こえそうなくらい、七生の顔は赤くなった。

 その後、七生とはそこで別れ。また落ち着いたら会おうと約束した。



 「で? 七生の明るい未来って?」


 夜、ベッドの中で、岳の上に覆い被さる様にして、その顔を覗き込む。

 岳はそんな俺の腰に腕を回しながら。


「七生が牧にひと目ぼれした」


「ええっ! マジで?」


「大真面目だ。──いい線、ついたな。今度はきっと上手くいく」


「そっか。牧にかぁ…」


「なんだ? ひとり、信奉者をなくしてがっかりか?」


「違うって! だって、なんか意外だったからさ。もっと、今どきの奴に行くかと思ったからさ。だいたい、信奉者ってなんだよっ」


「俺は大歓迎だがな。──これ以上、増やしたくはない」


 そう言うと、顎を捉えてキスしてくる。


「──これ以上って、そんないねぇだろ?」


「イヤ。結構、いるぞ」


 亜貴や真琴以外にいるとでも言うのか。


「知りたいか?」


 岳は意地悪な顔をする。俺はふるふる頭を振ると。


「いい。知らなくていい。──俺には、岳がいればいい…」


 それで、十分なのだ。


 そう言って、俺から唇にキスをする。

 岳は笑って見せると。


「大和は、最高だな…」


 そう言って、身体を反転させると、上から見下ろし。


「俺だけを見ろよ。大和」


 真剣な眼差しにドキリとする。


「…おう。あったり前だっての」


 そんな俺に、岳は笑みを浮かべつつ、開始の合図のキスをした。

 岳以外に、こんなふうに俺をドキドキさせたり、キュンキュンさせる奴はいない。

 何のてらいもなく、好きだと言えるのは、岳だけだった。



 その後、ほぼ毎日、店に通った七生が、牧を落としたとか、落とされたとか。

 そんな噂を耳にしたのは、それから三月後の事だった。敵がいない場合の七生の行動力は伊達ではない。

 岳が警戒したのは、当然の事だったのだ。

 心底、ホッとした様子でその話を告げた岳に、俺は笑った。



ー了ー

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