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Take On Me 3  作者: マン太


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42/49

42.二人の時間

 日も落ちる頃、大和が目を覚ました。背後から抱きしめていても、気配で分かる。

 そのまま、また抱いて。


 無理をさせてしまった。


 別れてから三週間近く経っていた。

 痩せた身体。落ちた筋肉。

 日々触れない日はなかったのだから分かる。

 そんな身体だと言うのに、止められなかった。

 別れ話の真意を問えば、そうだと答え。

 大和は何か言いかけたのに、その言葉を無視して、タガが外れ必死に身体を求めていた。


 大和を離したくなくて。

 別れ話しなど、聞きたくなくて──。


 その隙を与えず、ただ好きだと伝えた。言葉ではなく、身体を使って。

 他に大和を引き留める手立てを、思いつかなかったのだ。

 始めこそ抵抗して見せたものの、それも僅かな事で。後は面白いほど、岳の与える快楽の中に溺れて行って。

 大和の身体は全てわかっている。そうなるように仕向けたのも自分で。


 大和は、俺だけのもの。手放しなどしない──。


 行為の最中、気がつけば大和は気を失っていた。

 それはそうだろう。あの路地で捕まえてから、水分以外、ロクに口にしていない。そこへ持ってきて、自分とのこの行為。気を失って当たり前だ。


 すまない。大和…。


 でも、自分でもどう仕様もなく。必死だった。こんな事をしたって、大和が一旦、心に決めれば止める事など不可能なのに。


 離れたくない──。


 それだけだった。

 酷い行為だ。いい加減、嫌ってもいいだろうに。


 大和は俺を許した。


『ずっと、側にいる…。終わりなんて──本当は無理なんだ…。もう、嘘は言わない…』


 その言葉に、思いが溢れる。

 大和との別れを思い、深い悲しみに因われた。それが、救われた瞬間。


 もし、自分が暴走しそうになったら、止めてくれるかと問われ。その問いに答えた声が震えた。


「勿論…」


 涙が頬を滑り落ちる。


 お前が我を忘れても、俺がきっと止めてみせるから。信じてくれ──。


 ようやく安堵の表情を浮かべ、深い眠りに落ちた大和を、今度こそ、優しく抱きしめた。


+++


 次の日の朝。

 起きるといい香りが漂って来た。


 何だろう? シチューの香り?


 クリーム仕立ての『何か』の匂いがする。

 部屋のドアは開け放たれていた。そこから小さなキッチンに立つ岳の背が見える。

 マドラス柄のブルーのネルシャツに、ジーンズを履いた岳。広く頼り甲斐のある背中に、惚れ惚れする。


 岳と別れるなんて、やっぱり俺には無理だったのだ。


 岳の背を見ながら、つくづく思う。

 今回の件で改めて認識させられた。岳のいない人生など、考えられない。


 怖いからって、逃げたってダメなんだ。


 それを乗り越えるまで、必ずまた同じ壁が立ちはだかる。いつかは、乗り越えなければならない。

 自分を抑えられない──それは岳も同じ。俺のことになると、止められない。

 だから、傍にいて俺が止める。

 今回と同じこと。


 きっと岳が、前と同じように俺を止めてくれるから──。


 と、気配に気づいたのか、岳が振り返った。


「…おはよう。大和」


「はよ…」


 岳は何処か遠慮がちだ。昨日から今日、早朝にかけての暴走があるからだろう。気遣わしげに様子を尋ねてくる。


「身体は大丈夫か? その…、昨日から無理をさせたから…」


 すっかり耳を伏せた大型犬状態だ。ヤンチャを見咎められ、キューキューと鼻を鳴らして許しを請う姿。

 

 カワイイじゃんか。


 これがあの、ヤクザも尻尾を巻いて逃げる『鷗澤岳』の姿とは。誰も知らない、俺だけの『岳』だ。

 俺はクスと笑うと、腹ばいになって枕を抱える。


「シュンとしてんの、らしくないって。そりゃ、疲れてたけどさ。それも吹っ飛ぶくらい──良かったってことだし?」


 俺は必殺上目遣いになって、素直な感想を述べる。口にするのは小っ恥ずかしいが、今は言ってもいいと思った。

 辛かったとか止めて欲しかったとか。言った所で実際、触れられることが嬉しかったのは事実で。

 それに、あんなビーストモードな岳、滅多に見られるもんじゃない。


 ま、ごくたまーになら、たまーになら。出現してもらっても構わない──けど。


 あれはあれで、良かったのだ。


 うん。素直に認めよう。


 いつも紳士で余裕な岳が、必死になって求めて来る姿がいじらしくて。

 コツメカワウソが、ライオンに勝利した感じと言ってもいい。分かりにくい例えだが、そんな感じだ。

 まあ、勝利と言っても、結果は完敗だ。岳ラブを再認識したに過ぎない。

 岳はその言葉に、ポカンとして見せたが、すぐに前髪をかきあげ笑い出す。責められると思ったのだろう。


「っとに大和は…。意表をつくな」


「どういたしまして。って、朝なに?」


 鼻をクンクンさせると、岳はまた笑う。


「ラビオリ入りのスープだ。クリーム仕立てにしてある」


 その顔を見て思う。岳は笑っているのが一番だ。


「ラビオリ? って、中に具が入ってる奴?」


「そうだ。前にも作っただろ?」


「覚えてる! あれ、美味しかったぁ…」


 その時を思い出して、よだれを垂らす勢いだ。岳の手作りパスタがやたら美味しくて。パブロフの犬状態。それでまた岳は笑う。

 岳は一旦、コンロの火を止めると、まっすぐこちらに向かってきて、ベッドサイドに腰を下ろした。

 袖を捲った腕には、水滴が少しついている。キャンパス地の白いエプロンがよく似合っていた。岳は手を伸ばし、俺の頬に触れると。


「…キス、してもいいか?」


「んだよ。今更」


「多分、キスしたら、止められない。──だから聞いてる…」


「っまえ…。どんだけ…」


 昨日を含め、かなりのハッスルぶりだ。オフスイッチは何処にあるのだろう。

 けれど、熱のこもった瞳で見つめられれば、否と言える訳もなく。


「うーわー! わかった! いいよ。うん、もう好きにしろって。──俺も好きにする…」


 そう言って岳の首筋に手を回すと、引き寄せて自分からキスをする。それから間近で岳と見つめて。


「ラビオリ、伸びないよな?」


 すると岳はクスリと笑んで。


「…大丈夫だ。ちゃんとのびない様にしてある」


「そのつもりだったのかよ…」


「大和が格好良すぎてな。スイッチが入った」


「あぁ? 俺の所為か?」


 抗議の色を声に乗せれば、岳は笑んでキスをしてくる。とりあえずは軽く触れる挨拶のキスで。


「責任をとってくれ…」


 そう言うと、返事をする前に岳が覆いかぶさってきて、今度はしっかりと、熱の籠ったキスが唇に落ちてくる。

 一方的なそれではなく、ちゃんと俺の反応をみて、それに応えるように、だ。

 俺は岳の背に腕を伸ばし、しっかりと抱きしめた。岳の温もりは心地良い。

 そうしてキスの合間、その耳元に。 


「もちろんだって」


 そう囁いた。



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