強くなりすぎてしまったが故.........
『ギフト』をもらった後、グランドール卿にご馳走してもらったり、王都を観光したりと色々あったが、後日無事に家に帰ることができた。もちろん、パパも一緒に........って、あれっ?
「ぱぱがいない.....死んだ.....?」
「私ハソンナニ貧弱デハナイ」
「はうわぁ!?」
こ、こいつ!いつの間に俺の背後をとったんだ!?
「やられてばかりでは性に合わん!てい!やあ!とう!」
「アウッ、アウッ、アウッ、コラ!ヤメナサイ!」
「うふふ、もうすっかり仲良しね」
「流石です、お坊っちゃま!こんなにも恐ろしい旦那様相手に果敢に攻撃を仕掛けるとは!!」
「......私ハソンナニ怖イカ?」
「うん!出くわしたら死を覚悟するレベルで怖いよ!」
「ソ、ソンナニ.......?」
.....なんか、いいな、こういうの。すっごく幸せな気分になれる.......やばい、平和ボケしそう
まぁ、でも今くらいはいいよね。明日から頑張ればいいんだから......
──翌朝──
さて、宣言通り頑張るか。
まずは、いつも通り共通スキルの熟練度上げからだな。
これは言ってなかったと思うが、共通スキルには熟練度という項目が全てのスキルについてある。
熟練度が上がると、スキルの発生が早くなったり、消費する魔力量が減ったりする。そして、レベル10までなると、そのスキルとは別の、より強いスキルが取れるようになる。ちなみに、熟練度自体は30段階で評価されているようだ。
実は、俺は前からコツコツと熟練度上げに勤しんでいるのだが、主に俺が鍛えているのは次の三つだ。
A─013(Lv7)、H─004(Lv11)
K─008(Lv6)
アルファベットは、どういう属性のスキルかを表している。A、H、Kはそれぞれ水、索敵、回復だ。
別に覚えなくていい、また出てきたらその都度言うから。
そして、その後ろの番号は、単純に他のスキルと区別するために振り分けられたものだな.....まぁ大きければ大きいほど強いスキルだと思ってくれていい.......が、索敵スキルに関してはこれに該当しない。
このH─004って言うのは辞書では『直感』と名付けられていて、これがなきゃ命がいくらあっても足りないレベルの必須級スキルらしい。効果は名前の通り相手の攻撃が直感的に分かるようになるそうだ。
そして最後に(Lv~)と表記されているのが熟練度だ。
スキルには大まかに序列がつけられている。
初級、中級、上級といった感じで。俺が使っている水魔法は中級の丁度真ん中くらい、回復魔法は中級の下ほうだな。
上級からはさらに上があり、そこからは『クラス~』と呼ばれるようになる。高い方から順にS、A、B、Cに分かれている。級とクラスの境界は、いわばアマチュアとプロとの境界線みたいなもんだな。
ちなみに、この序列は共通スキルだけでなく、固有スキルにもある。
このパパから貰った『筋力上昇(大)』はクラスAだった。
魔力消費量が少なく、能力の上がり幅も大きい。個を強化する手段としては最高峰のものなんだとか。パパありがとねぇー......。
あと、俺の愛する呪い耐性(笑)は初級だった。
なんか、スキルの強さランキングを見ると、周りに(極小)って書いてあるやつしかいないんだけど、これ、なんでだ?
まぁとりあえず今の目標は水魔法と回復魔法を中級から上級に上げること、そして、『直感』の熟練度も出来るだけ上げることだな。
あと、共通スキルを取るにはスキルポイントというのも必要で、その貰える量はステータスに依存するから、基本的なからだ作りも忘れちゃいけないな。
.........では、前置きはこれくらいにして.....やりますか!いつものアレ!!
─────────────
よぉぉーーし!それでは早速、訓練をォォォォ始めるぞオォォォォォーーー!!!
イヤッホぉぉぉぉーーい!!!
「やっほーー!!」
まずは準備運動から!!
「いち、にー、さん、し!ごー、ろく、しち、はち!にーに、さん、し!ごー、ろく、しち、はち!」
よーし!!お次は回復魔法の特訓だぁぁぁー!!!
気合い入ってるかぁぁーー?!!
「いえーーす!!!」
それではぁ!スッタァァーートォォォーー!!!
「................」
.................。
「.................」
..............まぁ、集中しないといけないからね、あのままのテンションだと無理なんだよ.....。
本当は、ダメージを受けている状態でやった方がいいんだけど、わざわざ痛い目にあいたくないし、都合よく怪我人がいるわけでもないから、素の状態の自分に魔法使うしかないんだよな..........。
「..............終わりました!!」
よーーし!!お次はランニングだぁぁぁー!!!
イ“エ“ェェェェーーーイぃぃぃ!!!
「わっしょーーーい!!!」
「えっ、ほっ、えっ、ほっ!!」
ペースが乱れているぞォォォォーー!!?
気をしっかり持つんだぁぁー!!俺ぇぇぇーーー!!!
「アイアイサーー!!」
「あら、サイちゃん、今日も頑張ってるわね!」
この人はよく野菜なんかをお裾分けしてくれる村のお婆ちゃんだ。俺はよく水魔法の練習も兼ねて、この人の畑に水をやりに来ている。いや、水というより魔力かな?どちらにせよ野菜を育てるには必要なことだ。
「せいやーー!!」
「うふふ、今日もありがとう」
水をあげるのはお婆ちゃんの所だけではない。
村全ての畑にやる。もちろん走りながら。
だから、最後にはこんな感じになる
「どぅへへうえあああぁぁ!ぐぼぉぅうええぇぇうぼえぇぇぇぇーーー!!」
「さ、サイちゃん、もう大丈夫じゃよ!もう十分!十分じゃから!!」
「ううぅぅげぼげぼぼぉぉぉーー!!うげげぇぼえええぇぇぇぇぇーーーー!!!」
水ぶしゃーー!!
「サイちゃん.....もう本当に無理せんといてくれ.....」
よーーーし!!ラストスパートだぁぁぁー!!!
頑張れぇーー!!俺ぇぇぇーーー!!!
「うぎゃぼぐえええぇぇぇーー!!」
「お坊っちゃまーー!!がんばってくださーーい!!」
そして、最後はぁぁぁぁーーー!!!
「お坊っちゃ──ぐべあぁぁぁーー!!?」
レイナに水魔法ぶちこんでフィニィィーーーッシュ!!!
「ア“ア“ーー、ア“ア“ーー、ア“ア“ーー!!」
「お坊っちゃま!大丈夫ですか!?このびしょ濡れのタオルで汗を拭いて下さい!!」
「な“ん“で“や“ね“ん“」
────────────────
ランニングを終えたあと、朝食を食べるのは、少し時間を置いてからにしている。.........なんとなく。
なんか、その方が良さそうだから....知らんけど
「サイちゃん、ご飯おいしい?」
「うん!おいしーー!!」
「シリカ、コレヲアゲヨウ」
「なにこれーー!」
「魔力ガタップリ入ッタジュースダ」
「わー!ありがとー!.....ゴクゴク......うん、あんまり美味しくない」
「エッ?」
朝食を終えたあとは、筋トレ、それも終えたらスキルについての勉強、そして最後に魔力が回復してきたら『直感』のスキルの練習をする。これが俺のルーティーンだ。
これをあと少なくとも3年はやる。がんばる。
.....つまり、これから3年間、何も面白いことは起こりませんっっ!!
ということは、一体これから何が起こるのか!!
もう、お分かりですね!!?
いきますよー!せーの、ジャァァーンプ!!!
──3年後──
グキィ!着地ミスゥゥ!
「ぐわぁぁーーなぜだーー!?」
「きゃーー!?サイちゃん、大丈夫ーー!?」
くっ......うぅ....こんにちは.....3年後のサイちゃんです.......。
「くそぉ.......!スキルポイントが足りないせいで足首を挫いたぁ........!」
「サイちゃん、多分そこに因果関係はないわよ」
スキルポイントがぁぁ...........スキルポイントが足りないんですぅ........。
........とりあえず、俺のこの3年の成果を公開させてくれ。
まずは『直感』、熟練度はLv11からLv16に上がった。まぁ、こんなもんなんだろうけど、これだけ頑張って5レベルしか上がらないのは大分きついな.........これからどんどんレベルは上がりずらくなっていくだろうし、最大にするには一筋縄ではいかなそうだ。
ちなみに、この特訓にはパパに付き合って貰った。今では目隠しをしても大体どこら辺に攻撃が来るかが分かるくらいにはなっている。
次は回復魔法。今俺が使っているのは、K─032
上級の下位レベルのスキルだ。熟練度は7。
効果は、「対象一体の身体のダメージを回復させる。」
かすり傷程度だったらすぐに治せるが、それ以上のものだと、このスキルでは治すまで時間がかかる、もしくは治せないことがある。そんな感じだ。
なんか、大したことないように感じるかもしれないが、かすり傷でも一瞬で治せるって結構ヤバイわよ?
そして、最後は水魔法。使ってるのは、A─058
上級の一番上、つまりクラスC一歩手前のスキルだ。
熟練度はすでにレベル10まで達している。
こいつは攻撃魔法で、スナイパーみたいに正確に敵をぶち抜くのに適した魔法だ。
そして、こいつの上位互換を取ろうとした時、「スキルポイント足りない問題」に直面したのだ。
前に「スキルポイントはステータスに依存する」とか言ってたと思うが........俺のステータスが低すぎるとかそういうのではない。むしろ高い方なのだ、他の同年代の奴らに比べて。「魔力量」とかは平均から2倍以上差があるし、「経験」という項目もあるんだが、俺が転生者ということもあって、数値が異常に高い。
だが、足りない!!
理由は分かっている!!
俺がまだ10才だからだ!!!
「スキルの成長に身体が追い付いていない.......。」
「ウーム.......普通ハ逆ダト思ウノダガ......」
「お坊っちゃま、回復魔法のスキルポイントをそっちに回してもダメなのですか?」
「うん、それでも足りない」
実は、スキルポイントはいくらでも振り直すことができる。
特にデメリットなしで。もちろん、それには少し時間がかかるから戦っている最中とかにやるのは無理があるけど。
「.........年齢的ニハ不十分カモシレナイガ、実力デ言エバ申シ分ナイノデハナイカ、カレン?」
「........でも、まだこんなに小さいし....」
「シリカハ強イ。今クライガ丁度イイ時期ダト思ウゾ」
「.........そうね、そうかもしれないわ」
ん?何の話?
「シリカ、コレカラオマエハ、レイナ二稽古をツケテモラウコトニナルガ......イイカ?」
「えっ、やだよ」
「エッ?」
「なぜですか坊っちゃまーー!?いっぱいお触り出来る口実が作れると思ったのにーーー!!!?」
「レイナ、アナタ死になさい」
「以前よりも辛辣になってるーー!!!!」
─────────────
「お坊っちゃまーー!!準備はよろしいですかーー?!」
結局、稽古をつけてもらうことになった。
「シリカ、全力デヤルンダ。持テル力を全テ使エ」
「う、うん..........わかった」
.......つまり、魔法とかもレイナに向かって全力でぶっぱなしていいってことだよな......なんか、緊張する.....。
「遠慮しなくていいですよーー!」
よ、よーし....やってやる...やってやるぞ.....!
魔力を指先に集中させ、狙いを定める。使うのは水魔法。
あまり魔力を込めすぎると手先がぶれてしまうが.......この距離なら.....!
「...........ッラアァァ─────!!」
ドォォォーーーン!!
..............やったか!?
「...............流石です!お坊っちゃま!まさかこれ程の威力とは!!」
.......全力で撃ったつもりだったんだか、まさか微動だにしないとは......濡れてすらいないし
生き物のほとんどには「魔力障壁」というものが備わっており、魔力の扱いに長けている者ほど、魔法に対する耐性が高いとされているが.....レイナは結構魔法を使うのが得意なのかな?
少なくとも俺以上であることは間違いなさそうだ。
..........アレッ?じゃあなんでいつもランニングが終わった後、俺の水は直撃してんだ?
..........いや、考えないようにしよう。この件は闇が深そうだ
「シリカ、今ノハ全力ダッタカ?」
「うん」
「ウム、デハシリカヨ、魔法ヲ防ガレタ後、オマエナラドウスル?」
ははっ!愚問だな!そんなん決まってる───!
「全力で逃げるッッ!!!!」
「シリカ....................大正解ダ......!!」
「あーー!!ちょっと待ってくださいよーー!!」
「ハハハ!.......マァ実際コレガ正シイ行動ダト思ウガナ。
シリカーー!戻ッテキナサーーイ!」
──────────────
「ヨシ、次ハ近接戦ヲ想定シタ訓練ダ、シリカ、コノ中カラ好キナ武器ヲ選ビナサイ」
「なに言ってんだい!」
「エッ」
「男は1に拳で2に拳、3、4は蹴りで5は頭突きだよ!」
「ソンナ、全身"凶器"デ出来テル訳ジャナインダカラ........」
「なに言ってんだい!!」
「エッ」
「俺はすでに"狂気"に呑まれてんだよ!!」
「将来ガ不安ダナァ............」
「ハァ..........マアイイ、武器ナシデ戦ウ.....デイインダナ?」
「いや、槍使います」
「ナンデヤネン」
.........武器を持って戦うのは初めてだ......これも緊張するー......というか、俺もしかしなくても実戦を想定した訓練はこれが初めてなんだよな
筋力上昇(大)のお陰か武器を持つことに関して言えば何も問題はないが........上手く扱えるかなぁ
「さぁ!何処からでもかかってきてください!」
「うーん.......や、ヤーーー!!」
「おっとっと!いいですよー、その調子です!」
あ、当たらない!?振っても突いても掠りもしない!
なんだこれ、バグか!?
「では、そろそろ私も反撃させて貰いますよー!」
「わぁ、あぶねー!?.......くっ、くそー!」
辛うじて避けられてはいるが....いかんせん、反撃ができない!ただ一方的に切りつけられている。
「............うぬぬぅ.....!」
「どうしましたか、お坊っちゃま!守ってばかりではなにも解決しませんよーー!」
くっ、屈辱的だ!こんな分かりきったことを言われるなんて!
くそぉ、無理やりにでも隙を作りにいかないと!
「うおおぉぉぉーー!」
狙うはレイナの持ってる槍!つばぜり合いみたいな感じにして次の一手を、なんか、こう....上手くやりたい!
「おっと!」
あっ、避けられた
「はい!これで終わりです!」
「..................うぅ、負けたぁ」
まぁ、武器を使って戦うのはこれが初めてだとしても........
ここまでボロボロに負けるとは..........なんか、情けなくなってくるなぁ。
「シリカ、良ク頑張ッタナ。マァ思ウトコロハ、イロイロアルト思ウガ......一先ズ、休ムトイイ。」
「...............うん」
「..........シリカ」
「.......なに?」
「私ニハ昔、トアル友人ガイテナ....」
「..............? うん」
「ソノ友人ニハ1人ノ息子ガイタ。コノ時代ハ物騒デナ.......友人ハ息子ニ、ドウシテモ生キテ欲シクテ幼イ頃カラ毎日稽古ヲツケテイタノダ.........ソレハ他ニ何カヲヤル時間ガナイ程厳シイモノダッタ」
「パパ、ごめん、もうちょっと分かりやすい声でお願い」
「ウ、ウン........ワカッタ」
「アーー、あーー、おほん。.....そして、その稽古をつけ始めてからおよそ10年程経つと、その息子は同年代の他の誰にも引けを取らないほど強くなった」
「..............」
「その後すぐ、息子は国に徴兵され戦場へ行くことになった。そしてその戦場で息子は1人の女を見つけた。女は痩せ細っており、明らかに瀕死の状態で転がっていた。その女は人間だった........つまり、息子の敵だったのだ」
「息子は回復魔法で女の一命を取り留めた。そして、その女を連れて、同じ戦場にいた父親のところへ向かった。戦況は息子たちの陣営が優勢だった。息子は父親に女を保護してくれるよう頼みに行ったのだ。だが、父親.......私の友人は女を見たとたん──」
「その首を切り落とした」
「.............息子は怒り狂った......怒り狂い、手に持った剣を父親に振りかざした......明確な殺意を持って。その瞬間だった、息子が撃ち抜かれたのは」
「..............えっ」
「それは味方からの狙撃だった......誤射だったのだ。息子は人間に似ていた.........といっても輪郭だけだったが。それか、父親が有名であったから、それに剣を振りかざす者は敵だと誤認されてしまったのかも知れない」
「父親はそれで酷く心を痛めてしまい、戦場へ行くのをやめた。そして.........息子の後を追うようにしてこの世を去った」
「...........................」
「一体何処で、歯車が狂ってしまったのだろうな...」
「なあ、シリカ」
「......何?」
「私はお前に広い世界で生きて欲しいんだ」
「.........広い世界?」
「ああ、そうだ。知らないところへ行き、沢山のものに出会って、そして.......いろんな価値観を持って欲しい」
「..........わかった、そうするよ」
「そうか......良かった......お前は強い、自信を持っていい。お前の努力は本物だ」
「みんなーー!ご飯よーーー!!」
「.........だってさ、パパ、早く行こうか。
レイナも!そんなところでカカシになってないで、置いていっちゃうよ!」
「ま、待ってくださーーい!!」
「....ドウカコノ子ヲ見守ッテイテクレ....クリード」