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ふたご劇場  作者: 或名木綿子
二読
6/8

綴る日々

緑玖の自宅は、相変わらず生活感が無い。

2LDKの広い間取りに、最小限の家電と、ベッドと、デスクとパソコン。ラグすら置かれていない。


昔、観葉植物をプレゼントしようかと考えた事もあったけれど、弟は多忙なので、きっと枯らしてしまうと思った。

埃は1つも無い。掃除は藻巳さんがしているのかしら。

今は一緒に住むことになった事だし、藻巳さんと相談して、今度観葉植物を買いに行こう。


緑玖の住むマンションと実家の距離は、それ程離れていない。徒歩で通う事も出来る。そう考えると、やはり甘えるのは間違いだったのではと思ってしまう。


親友である藻巳さんと弟が結婚すると聞いた時は、とても嬉しかった。申し込んだのは緑玖らしい。弟はなかなかの色男なので、藻巳さんもドキドキしたに違いない。


以前、この事を小鹿先生に話したら、かなりのブラコンだと大声で笑われた事がある。まるで面白がっているようだった。

私が弟の話をすると、毎回笑いを堪えているのに、求婚の話をした時だけは、堪えられなかったと謝られた。

その様子が、何故か嬉しく感じた。


先生を思い出すと、会いたくなる。患者から会いたいと言われたら、あの先生でも困るかしら。

きっと他の患者さんにも同じように接しているのでしょう。それならば、会いたいと思うのは私だけでは無いはず。

我慢しなければいけない。ただでさえ、先生はたくさんの患者さんから愛されているのだから。


緑玖が実家から持ってきてくれた私物の入ったケースを開ける。中には愛読書数冊と、着替えが入っていた。

一番下には、赤いリボンでラッピングされたA4サイズの分厚いノートがあった。


「青良さんへ ささやかな贈り物と共に貴女の幸せを」


そう印刷された可愛いメッセージカードを見つけ、きっと藻巳さんが選んでくれたプレゼントだと、私はそれをぎゅっと抱きしめた。


薄いグリーンの表紙に、小さく月が描かれた、とても綺麗なノートだった。ざっと300ページはある。ページも1枚1枚に厚みがあり、2本の青色のしおりがついていた。

「嬉しいわ。なんて素敵なノートなんでしょう」


照れ屋な弟がケースの奥にそっとしのばせた様子を思い浮かべ、思わず笑ってしまう。

「そうだわ」


ノートの使い道は決まった。毎日の出来事を先生に向けた日記として綴ろうと思った。

もちろん、先生には見せられない。会いたい気持ちを書いて見せるなんて。

だから、ここにひっそりと残す。


ケースから、愛用している万年筆を見つけ、さっそく綴る事にした。今日一番の出来事。


先生へ、と書くのは、どこか気恥しい。無いとは思うけれど、もし見られたらと思うと。


親愛なる貴方へ。


まるで、宛先不明のアンネの日記。心が踊るようだった。

「うふふ。やっぱり、恥ずかしいわ」

その日の出来事を綴るはずが、先生への気持ちばかり書いてしまった。


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