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7.その後の二人

番外編読みたいって言ってもらえて、嬉しくて書きましたー!!

「セディ、どういうことですの?」

 セドリックの非番の日にいそいそと彼の屋敷にやってきたシャロンは、いつものように応接室で優雅にお茶を飲んだ後そう切りだした。


「……どう、とは」

 セドリックは全く意味が分からなくて、ぱちぱちと何度も瞬く。

「あなた、わたくしが何も知らないとでも思ってますの?二番街の宝飾店にサリーと一緒に入っていったという情報を、確かな筋から得ていましてよ」

 サリーは王太子の侍女。セドリックには同僚ともいえる存在だが問題は二人が宝飾店を訪れたのは、セドリックの前回の非番の日、ということである。

 つまりプライベート。しかもその日、シャロンは彼を美術展に誘ったのに用事があるから、と断られていたのである。

「浮気でしたら、もっとバレないようになさってくださいな。バレますけれど!」

 だん! とテーブルを叩いたものの、非力なシャロンの力ではせいぜいが紅茶に波紋を作る程度だ。


 セドリックは改めて彼女のか弱さを知る。口では強いことを言っているが、目元は赤く口元は震えている。

 騙し討ちのようにして愛を育むこととなった二人だが、いざ付き合ってみるとシャロンは元から完璧というわけではなく、情報を精査し何パターンもルートを想定して行動しているからこそ、まるで何もかも知っているかのように振る舞えるのだ、と分かった。

 そんな彼女が、勘違いでこんなにも冷静さを欠いている。普段の彼女ならば、そしてセドリック絡みでなければ誤解など絶対にしないのに。

「……君がこんなに嫉妬深いなんて知らなかったな」

「あら。まるでわたくしが心が狭い女のように仰るのね」

 キッとシャロンは彼を睨みつける。

 それすら、子猫が爪をたてているかのような、むず痒さを感じてしまう。これは後できちんと彼女に叱られようと決めて、セドリックは美しい婚約者がぷりぷり怒っている姿を愛でた。


「わたくしの心は海よりも広く、深いのですわ」

「うん……?」

「ですがその広く深い心の全てを、あなたに費やしているからこそ一見して狭く見えるというだけのことです。見縊らないでいただきたいわ」

「……うん」

 セドリック的にはそれは盛大な愛の告白だと思うのだが、大真面目にシャロンが言うものだから、何も言えない。

「前にしか進めないと仰ったのはあなたではないですか、他に好いた女性が出来たならば堂々とわたくしに報告があっても…………セディ?」

 向かいに座るセドリックが顔を覆って俯いてしまったので、滔々と語り続けていたシャロンは首を傾げた。

「どうなさったの? 具合でも悪くなりました? お医者を呼びましょうか」

 さっと立ち上がった彼女は、テーブルを回り込んでセドリックの隣に座ると、労わるように彼の膝を撫でる。


「ああ、シャロン」

「きゃっ」

 ぎゅっとセドリックがシャロンを抱きしめると、彼女はまさに子猫のようにソファの上で飛び上がった。抱きしめられているので、あまり意味はなかったが。

「セディ……?」

「君は、どうしてそんなに愛らしいんだ」

「そんな当たり前のことはよいのです、それよりもお医者様を……」

 言い募る彼女を制して、セドリックは内ポケットから小さな箱を取り出した。

 婚約解消の為の書類には見えず、シャロンは眉を顰める。というか箱に印字されたロゴは、サリーと一緒に赴いたという宝飾店のものだ。

「すまない、君がそこまで冷静さを失うとは思っていなくて……」


 ぱこ、と箱を開けると、そこには小さいがセドリックの瞳と同じ色の宝石が嵌った、華奢なデザインの指輪。

「俺はこういうのはちっとも判らないから、サリーに選ぶのを手伝ってもらった。すなまい、驚かせたくて、内緒にしていたんだ。シャロン、受け取ってくれるだろうか……?」

「こ」

「こ?」

「この朴念仁ー!!!!」

 クッションでぼふん、と顔面を叩かれる。

 非力なシャロンの攻撃は、セドリックにとって効果はゼロだ。

「ああん、もう。ちょっとはよろめいたりなさい!」

「すまない……抓るか?」

「その態度に腹が立つのです!」

 ここは叱られておくべきシーンだろうと判断してセドリックが手の甲を差し出すと、文句を言いつつシャロンはそれをぎゅっ! と抓る。痛い。

 それからサッとシャロンの手の甲が差し出された。


「抓るのか?」

「おばかさん。そちらを」

 視線で促されてセドリックは恭しく彼女の白い手を取ると、もう片方の手で指輪を箱から取り出す。

 そして僅かに震える白い指先にキスをしてから、そっと指輪を嵌めた。

「……よかった。よく似合う」

「あなたって、本当に……」

 シャロンは指輪を見ながら溜息をつく。

 繊細なデザインのそれは華奢な彼女の手によく似合い、白い手にあって黒に近い緑の宝石が一際その身を主張していた。

「家宝を常につけるのは重いだろうからな」

 つまり常にこの指輪を身に着けておけ、と言っているのだ。

「……あなたがこんなに独占欲が強いなんて、知りませんでしたわ」


 こてん、とシャロンの頭がセドリックの肩に乗る。隣に座り彼女を抱き寄せて、その手に光る自分の瞳と同じ色の石をセドリックは満足そうに見遣った。

「俺も、全て君に費やしている」

「……次からはわたくしを直接誘ってくださいな」

「それでは内緒にならないだろう」

「いっちょ前にサプライズなど計画するからこんなことになるのです。第一わたくしに似合うものは、わたくしに聞くのが一番に決まっているでしょう」

 シャロンが本来の勢いを取り戻してそう言うと、確かに、とセドリックは頷いた。


「わかった。次からはそうしよう」

「ええ」

 ツンとシャロンが顔を背けるが、その頬にセドリックはキスをする。

「……よく似合うな。俺の可愛いシャロン」

「……あなたって、本当に……本当に……」


 シャロンはもうどうにでもしてくれ、という気持ちでセドリックに凭れかかり、彼は上機嫌でいつまでもその指輪の嵌った手を撫でていた。


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