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たかが子爵家  作者: 鈴原みこと
第九章 漠然とした思い
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Ⅳ.皇子からの招待②


 剣術指導の話を先延ばしにされたあとも、アルフレートは変わらず訓練場へと通い続けた。

 ユリウスも変わらぬ態度で接してくれる。それだけでもアルフレートには嬉しく、だから浮かれた気分で、その日も訓練場に足を運んだ。

 休憩に入ったユリウスを中央庭園に誘い、庭園に(もう)けられたベンチに並んで座ってから、アルフレートは話を切りだした。

明後日(みょうごにち)は私の誕生日なんだ」

 声を弾ませて報告すると、ユリウスが優しく笑ってくれる。

「存じております。当日は小宮殿で盛大な夜会(パーティー)が開かれるそうですね」

「その夜会(パーティー)にユリウスを招待したいのだ」

 招待状の入った白い封筒を(ふところ)から出し、勢い込んで差しだすと、ユリウスは虚をつかれたように目を丸くした。直後には琥珀(こはく)の瞳が戸惑いの色に揺れる。

 アルフレートはまたユリウスを困らせてしまったのだと悟った。

 皇族からの招待は本来であれば名誉なことだ。しかしアルフレートは他の者たちが避けたがる爆弾を抱えている。ユリウスが変わらず優しい態度で接してくれるから、うっかり忘れていたのだ。

 アルフレートは招待状入りの封筒を胸元に引き戻して項垂(うなだ)れた。

「私には親しい相手が他にいないから、ユリウスが来てくれれば寂しくないと思ったんだ……でも迷惑をかけたいわけでは、ないのだ……」

 じわりと涙が出そうになるのを必死に押し(とど)める。

 泣くのはダメだ。余計にユリウスを困らせてしまう――だが聞き分けの良い思考とは裏腹に、感情がついてきてくれない。

 視界が歪んだその瞬間だった。

 アルフレートの手から白い封筒が抜きとられる。

 驚いて視線を上げると、ユリウスが招待状の入った白い封筒を手にして、柔らかく微笑んでいた。

「ありがたく、ご招待に(あずか)ります」

「来て、くれるのか?」

 困惑するアルフレートに、ユリウスは「すみません」と謝った。

「ご招待いただけるとは思っていなかったので、少し驚いてしまっただけなのです」

 そう弁明してから、ユリウスは本題に入る。

「実は殿下に差し上げたい物があるのですが、いつお渡しすべきか迷っておりました。ですので、夜会(パーティー)当日に持参してもよろしいでしょうか?」

 ユリウスのそれが小さな皇子を気遣ってのものなのかは分からない。

 でもアルフレートには理由など何でもいいのだ。

 来てくれると決断してくれただけで、十分嬉しかったのだから。

「わかった。では当日を楽しみにしていよう」

 泣き笑いのような表情で声を弾ませると、ユリウスは招待状を大切そうに眺めて笑ってくれた。

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