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たかが子爵家  作者: 鈴原みこと
第九章 漠然とした思い
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Ⅰ.士官学校の入学試験②


 この年唯一の十四歳受験者ユリウス・フォン・ベルツが、琥珀(こはく)の瞳に闘志を(みなぎ)らせて闘技場(とうぎば)へと歩みでた瞬間だった。


 試合を見守る見物人たちからどよめきが起こった。

 赤毛の騎士が剣を抜き放ったからである。


「手加減はしてくれないんですか?」


 ユリウスがきょとんと目を瞬かせる。


「してほしかったのかい?」


 (あお)い瞳に笑みを乗せたステファンが、からかうような口調を響かせる。


「他の受験者に対しては一定の力で相手をされていたようなので、一応確認してみただけです」


 十四歳らしからぬ生意気さで揶揄(やゆ)的に返答したユリウスは、その態度とは裏腹な喜びに胸を躍らせていた。


 ここまでの試合で赤毛の騎士が本気を出していないことは分かっていた。

 六、七割ほどといったところだろう――一定の力を保って戦うことで、受験者たちの力量を測りやすくしているのだ。

 それがここにきて本気の構え。剣士としてのプライドが(うず)くというものだ。


 言葉の通り、ユリウスは念のため確認したに過ぎず、その回答もすでに得ている。


 ステファンは「してほしいのか」ではなく「してほしかったのか」と過去形で聞いた。これは、本気でいくのは確定事項であって何を言われても手加減するつもりはない、という明確な返答なのである。


 だからユリウスもこう答える。


「こちらも、遠慮なく全力でいかせていただきます」


 ユリウスが剣を抜いて構えると、両者の間に殺気が(ほとばし)る。


 ピリリとした緊迫感が会場全体を支配した。


「始め!」


 その合図と同時に、赤毛の騎士が地を蹴った。

 常に受け身で構えていた男が、この時ばかりは先手をとったのである。


 身体の中心を狙って突きだされる剣先。ユリウスは左に体を捻ってかわしざま、手にした剣を振り下ろして、相手の剣を下方へと逸らす。


 剣先を押し下げられたステファンが動きを止める。しかしそれはほんの一瞬だった。右回りで素早く体を回転させたかと思うと、剣を振り上げて斜め下から逆袈裟(けさ)で斬りかかる。


 相手の剣が離れた反動で前のめりに体勢を崩したユリウスの右側背(そくはい)を狙って、騎士の斬撃が襲う。


 ユリウスが前方に体を転がして難を逃れ、両者の間合いが離れた。


 しかし二人とも動きを止めない。


 立ち上がり際に地を蹴って、今度はユリウスが突き攻撃を繰りだした。切っ先は相手の首もとを狙っている。


 ステファンは剣の刀身同士を(こす)らせて攻撃の軌道を逸らす。


 執着を見せずにユリウスは一旦離れて体勢を立て直すと、再び斬りかかった。


 ステファンが正面から攻撃を受けとめ、弾き返す。


 次の瞬間、会場にどよめきが起こった。

 赤毛の騎士が、少年の腹部を蹴りあげたからである。


 誰もが予想できなかったその攻撃をまともに食らったかのように、ユリウスは後方へと派手に吹き飛ばされた。

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