Ⅳ.それぞれの反省②
アルフレートの自室。扉を隔てた奥に、賓客を迎えるための一室がある。
現状、本来の役目をほとんど果たしていないその部屋にユリウスを伴って入り、ソファに座るなりアルフレートが嘆息する。
「どうにも俺たちは不器用だな」
主のぼやきを聞きながら、ユリウスは複雑な表情を浮かべて返答に迷う。
そんな騎士に自分の正面にある席を勧めつつ、アルフレートはにやりとした笑いを顔に張りつけた。
「お前にしては意地の悪い言い方だったな。あれではレオンハルトひとりが馬鹿に見えてしまう」
自分が状況を助長させたことは棚に上げて、自らの騎士をからかうように話を振る。
「すみません。あまりにも腹が立ったもので、八つ当たりしてしまいました」
自戒の表情を浮かべるユリウスに再度座るよう促してから、アルフレートはふっと息を吐きだした。
「たまにはいいさ。立場に驕ってお前からの反撃はないと高を括っていたあいつ自身にも非はある。失敗しなければ気づけないことも多いからな」
むしろユリウスがあれを「八つ当たり」だと自覚していることに感心する。
あの時ユリウスが見せた怒りは、自分自身に対するものだ。
――誓いを返上したいのなら遠慮せずに言うがいい。
心にもないことを主に言わせてしまったのは、これまでの自分の態度にも原因があると思ったからである。
ユリウス自身にとってアルフレートへの忠誠は当たり前のものであり、揺らぎようがないことも分かっている。だから周囲にどんな陰口を叩かれても気にならなかった。それで問題があるとも思っていなかったから、特に訂正も弁解もしてこなかった。
それが周囲には曖昧な態度に映ったかもしれず、そんな他者の心理をユリウスは洞察し損ねた。先日ステファンから受けた忠告を、まさかこんな形で痛感させられることになるとは夢にも思っていなかったのである。
そんな自分の不甲斐なさに憤りが抑えられず、何より、アルフレートを積極的に傷つけようとするレオンハルトに格好の口実を与えてしまったことが悔やまれてならない。
だからその怒りをレオンハルトにもぶつけてしまった、というのが事の真相だ。
その意味では、ユリウスの本心を確かめようとあんなことを口走ったアルフレートにも、確かに非があった。
それだけではなく、ユリウスを自戒に追い込んでおきながら、彼の返答に満足して内心で喜んでいたのだから、アルフレート自身が罪の意識から逃れられないのは当然のことだろう。
反省要素は多々あれど、互いに自虐し合うことに意味はない。
アルフレートはさっさと本題に入ることにして、話を切り替える。
「ちょうど今時期だったな、お前と会ったのは。覚えているか?」
「あなたと出会ってからの一ヶ月間は刺激に満ちていて、忘れようがありません」
対面のソファに座ったユリウスは、穏やかな琥珀の瞳を主へと向ける。
自然――二人の記憶は、五年前の思い出へと飛んでいた。
【第八章 その告白は懺悔のように】終了です。
ジルケが言ったように、一見対照的に見えて実は似た者同士なウリカとユリウス。この物語はこの二人を柱として書いてる感じです。
そして皇宮では第一皇子と第二皇子がひと悶着。
腹違いだからか、仲悪いですね。