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たかが子爵家  作者: 鈴原みこと
第四章 思わぬ拾いもの
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Ⅲ.興味の矛先②


 勉強したのか――他人事のように尋ねた錬金術師は、その口調とは裏腹に興味深そうな表情を見せていた。

 ウィリアムはいつの間にか円筒型ボックスのひとつにクッションを敷いて座っている。作業台の隅に置かれていたクッションはこのためのものだったらしい。

「え~と」とウリカが錬金術師の問いに答える。

「器材に関しては、先日ここで読ませてもらった本に書かれていたんですけど、それ以外は、魔術学の本に少しだけ載っていた記述を読んだだけです。家には錬金術について書かれた本がそれしかなくて……」

 ずいぶんと奇妙なことを言うな、とジルケは瑠璃(るり)色の目を眇めた。

 ウリカの父親はこの錬金術師の資金提供(スポンサー)だと言っていた。

 ならば少しでもその分野を学ぼうと参考文献に目を通すくらいはしなかったのだろうか。

 投資をするからには、当然そのリスクについても考えなければいけない。リスク回避に知識は不可欠なものだ。

 とはいえ、自分が世間知らずな子供だということはジルケも自覚している。

 自分の考えが必ずしも正しいと言い張る自信はなかったから、この場では何も言わなかった。

 一方で、人生経験が豊富そうな錬金術師は、さして気にした様子もなく会話を続けた。

「そうか。なら錬金術の別名は知っているか?」

 ウィリアムの口調は何気ない。

 子爵令嬢を試そうという感じではなく、単純に知識の程度を知りたいようだ。

「えっと……元素を変換して新しいアイテムを生みだすから『変換技術』というのと、複数の物をかけ合わせて創るから『複合技術』とも呼ばれている……」

 記憶を掘り起こすようにウリカが答えると、

「違う」

 と、無情な否定が即座に飛んできた。無慈悲な男である。

「えっ? 間違ってました?」

「複合技術の意味が違う。科学技術と魔術という二つの技術を融合(ゆうごう)させた技術――だから、複合技術だ」

 ウリカは説明を受けても不納得顔だった。

 それを見たウィリアムはしかし、子爵令嬢の態度を否定はしなかった。

「おそらく、その本の記述自体が間違っていたんだろう」

 と、逆にフォローする。

「物事の本質を正しく捉えることは錬金術を行う上でとても大切なことだが、君はその点をよく理解しているようだな……覚え方に無駄がない」

「どういうことですか?」

 ウリカが首を傾げる。つられてジルケも首を傾けた。

 シンクロする少女たちの仕種が面白かったのか、ウィリアムがわずかに目を細める。

「教えられたことをただ暗記するのではなく、その意味や因果を考えることでより深く理解しようと努めている。自身で考え、理解したものはそう簡単には忘れない」

 小さな少女が瑠璃(るり)色の目を眇めて首をひねる。

(ダメ出し直後に褒め言葉……)

 アメとムチかな、とも思ったが、ジルケはすぐにその感想を葬りさった。

 この男がそんな労力を払うようには見えなかったからだ。

 単純に本音を吐露(とろ)しているだけなのだろう。

 そして、それが却ってジルケの興味を引いた。

 この錬金術師の場合、相手を信頼しているから本音を吐いているのではないだろう。ただ関心がないだけなのだ。

 相手からの評価に興味がないから言葉を選ぶ気もない。

 ジルケが育ってきた環境とは真逆の性質を持っている。

 だからこの錬金術師の言動が新鮮に映るのだ。

 小さな少女はウズウズとした好奇心に胸を(おど)らせて瑠璃色の瞳を輝かせた。

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