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たかが子爵家  作者: 鈴原みこと
第四章 思わぬ拾いもの
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Ⅰ.トラブルを連れて②


 この日まず案内されたのは客間(サロン)だった。


 殺風景な工房(アトリエ)と違って、こちらの部屋はそれなりに飾りつけがなされている。


 ダマスク柄の壁紙は淡い空色。床には青藍(せいらん)絨毯(じゅうたん)。さらに窓には落ち着いた青藤色のカーテンがかけられていた。

 この部屋は普段ウィリアムが休憩用として使っているらしい。ということは青系の色が好きなのかもしれない。


 小規模ながら本棚が設置されているのが目に入る。

 工房(アトリエ)には研究書や解説書など、錬金術に関する実用的な本が多かったが、こちらはほとんどが小説などの軽い読み物といった感じだ。


(仕事と趣味ではっきりと切り替えるタイプなのかな)


 漠然とした感想は胸にとどめて、ウリカは今日これまでの経緯(いきさつ)を説明した。


「なるほど。状況はだいたい理解した」


 話を聞き終えたウィリアムが納得顔で頷いた。

 理解が早いのはありがたい。


 しかし、


「類は友を呼ぶというやつか」


 小さく聞こえた錬金術師の呟きが、ウリカにはなんだか()せない。


(こんな面倒な子と一緒くたにされたくないんだけど……)


 そう思ったウリカはやはり自覚が足りないのだろう。

 先日剣で脅されたことをウィリアムはまだ根に持っていた。


「仕事の邪魔にさえならなければ、ここにいてもらって構わない」


 そう答えるウィリアムは、少女たちの対面で一人掛けソファーの背もたれに腰かけている。大変お行儀が悪い。

 しかしそれが不思議と不恰好には感じなかった。


(行儀の悪さも板につくとサマになって見えるものかしら)


 ウリカの内心を読みとったわけでもないだろうが、錬金術師がふっと笑う。その唇がいたずらめいた弧を描いた。


「何なら、昼食の面倒もみよう。お嬢さま方の口に合うかは保証しかねるがな」


 相変わらず一言多いな、と呆れながらも、子爵令嬢は「ありがとうございます」と礼を述べた。


 ジルケとともに二人掛けのソファーに座るウリカは、紅茶を飲んで一息つく。(あお)い瞳がちらりと錬金術師の手元を映した。


 彼の手にはティーカップではなく、取っ手のついた円筒状のコップが握られていた。その中には独特の香りを漂わせる黒色の液体が入っている。

 ウィリアムの故郷で主流となっている『コーヒー』という飲み物らしい。


 ウリカが興味津々で味見を所望したが、残念ながら聞き届けてはもらえなかった。

 ウィリアム(いわ)く――子供にはまだ早い、だそうだ。


「それじゃあ、そろそろ本題に入ろうか」


 ソファーに座り直してコップをテーブルに置いたウィリアムは、砂色の双眸(そうぼう)でウリカを見据える。

 余計なトラブルを拾ってきたせいで遅くなってしまったが、ここに来た目的をようやく果たせそうだ。


 ティーカップをテーブルに置いて、ウリカは背筋を伸ばした。


「あなたは錬金術を続けていく上で最も大切な素質は根気だ、と言いました。そして私の飽きっぽさを理由に、向いていないと判断した」


 まずは『宿題』の答え合わせ。それに合格すれば話を聞いてくれると、先日ウィリアムは言っていた。

 ウリカはまず、入口に立つための試金石に挑まなければならない。


「私の飽きっぽさの根拠として『何をやっても適度にこなせてしまうから、興味が離れるのも早い』とあなたは指摘しました。その一方で『錬金術は実験と失敗の繰り返しだから、根気がないと続かない』と説明した……この二つの言い分には矛盾があります」


「ほう……」


 ウィリアムがすっと目を細める。

 砂色の瞳は興味を(たた)えて子爵令嬢を観察していた。

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