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たかが子爵家  作者: 鈴原みこと
第四章 思わぬ拾いもの
32/153

Ⅰ.トラブルを連れて①


 アルフレートが自室で憂鬱のため息を吐きだしていた頃のこと。

 噂の絶えない変わり者令嬢ウリカは、朝方に知りあったばかりの少女を伴ってウィリアム邸を訪れていた。


 家を出てきてから、すでに二時間以上が過ぎている。


 今日は馬を飛ばしてきたから、目算では三十分ほどでたどり着けるはずだった。

 これだけ遅れる結果になったのは、思わぬ拾いものをしたせいである。


 本来なら、男たちを追い払ったあと、すぐにでもウィリアム邸に向かいたかったのだ。その足を止めるようにジルケ嬢から空腹の訴えさえなければ……。

 しかもこのお嬢さんは「一銭(いっせん)も持っていないから(おご)ってくれ」と(おお)せになった。


 親の教育はどうなっているのだろう?


 先日ウィリアムに同様の感想を持たれたとは、夢にも思わないウリカである。


「やれやれ」とため息をつきながらも、仕方なく少女の朝食を優先した。

 だって前回に続いてまたウィリアムに食事をたかるわけにはいかないだろう。


 しかし問題はそのあとである。


 朝早い時間に料理を提供している店がなかなか見つからず、ようやくたどり着いた宿屋の食堂で、少女のわがままが炸裂した。


「食事用の個室はないのか?」

「食べる前に手を洗いたい」

「ずいぶん品数が少ないんだな」


 と、いちいち文句が多いのである。


「貴族街じゃあるまいし、そんな贅沢はできません」


 そう説得するのに余計な時間と労力を割かれ、ウリカの疲労は増すばかり……そこに追い打ちをかけるように二の鐘(午前九時の報)が鳴り響いた。

 見知らぬ少女の食事風景を眺めながらその音を聞くはめになるとは、予想外すぎてびっくりである。


 どうしてこうなった?


 半ば呆然としながらウィリアム邸の呼び鈴を鳴らすウリカだったが、そこでさらなる不愉快さを味わうことになる。


 玄関口に出てきたウィリアムは予想に反して嫌な顔は見せなかった。しかしその代わりに、笑えない冗談を浴びせてきたのである。


「君の子か?」


 意地悪な錬金術師がジルケを見るなり放った一言がそれだった。


「そう見えるなら、あなたの目は節穴ですね」


 ウリカは不機嫌に唇を尖らせる。

 隣にいるジルケが首を傾げた。


「年齢差を考えればあり得ないと分かるだろうに、この男は頭が悪いのか?」


 このお嬢さんもなかなかに言う子である。

 しかし少女たちの猛攻にも、ウィリアムは動じなかった。


「これは失礼した。まだ冗談(ジョーク)を笑顔でかわせるほど大人ではなかったな」


 口の()をつり上げた錬金術師は嫌味で返してきた。

 ひねくれた男である。


 ウィリアムは気をとり直したように眉を持ち上げる。


「それで……その子は誰なんだ? 親戚か?」

「いえ、残念ながら、赤の他人です……諸事情があって連れてくることになってしまいまして……」


 自分の失態を告白するような心持ちで答えると案の定、呆れた顔をされてしまった。


「好奇心旺盛な令嬢だとは思っていたが、トラブルを拾う趣味まであるとは知らなかった」

「ありませんよ、そんな趣味。どんな変人ですか、それ」


 反射的に応じてから、しまった、とウリカは思った。


 またも冗談(ジョーク)でからかわれただけなのに、向こうの期待通りに反応してしまったではないか……。

 してやったりと言わんばかりの錬金術師の笑顔が憎たらしい。


「詳細は中でゆっくり聞くことにしよう。とりあえず入りなさい」


 何事もなかったようにウィリアムは少女たちを促した。


 余計なことなど言わず、最初からすんなり入れてくれればいいものを、なぜ冗談(ジョーク)でからかう必要があるのか。

 大人は時に不可解で理不尽だ。


 むうっ、と顔をしかめたウリカは、ウィリアム邸の玄関を(くぐ)る前に、その家主を恨みがましく睨みつけた。

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