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たかが子爵家  作者: 鈴原みこと
第三章 非常識は引かれあう
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Ⅲ.憂鬱の皇子②


 書類の仕分けを手伝うと申しでた騎士が、それで大幅にその数を減らせるはずだと(のたま)った。

 行政は各官府(かんふ)がとり仕切って、基本の運営がなされている。

 官府内で判断に迷うもの、単独で解決困難なものが、アルフレートの元に回ってきているはずである。

 それを減らすとはどういう意味なのか、すぐには理解できなかった。

「仕分けた程度で書類の数が減るなら苦労はない」

 アルフレートはケンカ腰で言い返した。

 上げて下げてを繰り返されたせいで、感情の起伏が少しおかしくなっていた。

 振り回された気持ちがして少し腹が立ったのもある。

 もともとの気鬱も手伝って、詳細も聞かずに反発してしまった。

 だがユリウスは気にした様子もなく、皇子の疑問に答える。

「回ってきている書類のほとんどは、各官府で処理可能なものと思われます。そうしたものは、あちらに返してしまって問題ないでしょう」

「何故そう言い切れる?」

「書類の数が多すぎます。各官府の手に負えない案件が本当にあれだけ存在するというなら、行政が正常に機能していないと言わざるを得ません。そうであれば、一度組織を解体して再構築することをお勧めします……殿下は、これまで目を通された書類の内容に疑問を感じたことはございませんか?」

 そう問われると、腑に落ちるものはある。

「こんなものまで皇帝の裁量を仰がなければならないのなら、官府の役割とは何なんだ?」

 そう感じたことは確かに何度もあった。

 だが書類が回ってくる以上、自分がやらねばならない仕事なのだと思い込んでいた。

 それをユリウスは否定する。

「行政を円滑に運営していくために、官府に一定の権利が与えられているのです。負った責任を果たすのが責任者としての務めである以上、能力の不足であれ、やる気の不足であれ、それを放棄することは許されません。責任を果たせない者に、爵位や報奨を受けとる資格はないかと」

 これは各官府の長官のことを言っているのだろう。

 この国には、官府と呼ばれる行政機関が大きく分けて三つある。

 政務(せいむ)官府。

 財務(ざいむ)官府。

 刑務(けいむ)官府。

 それぞれの長官には大きな権限が与えられており、公爵がその任につく。

 ユリウスは暗に公爵(かれら)を非難したことになる。

 しかもアルフレートの元に多くの書類が送られてくる原因を、彼らが無能なゆえか、でなければ怠慢(たいまん)の結果だと言っているのである。大胆なことだ。

 しかしその言い分は間違っていない。

 公爵としての地位も、高額な報奨も、それに見合った責任を果たしてこそ維持できるもののはずだ。そうでなければならない。

 アルフレートは自分の不勉強を自覚した。

「言いたいことは分かった。軽率に反発してすまなかった」

 素直に謝ると、近衛騎士が柔らかく微笑んだ。

 アルフレートが目を瞬く。

 ユリウスのこんな表情を見るのは、久しぶりな気がした。

 昔はもっと二人で笑いあっていたはずなのに、今はなんとなくお互いに距離を測りかねているところがある。

 いつの間にこんな壁ができてしまったのだろうか。

 ぼんやりとそう思いながらも、元の関係に戻す方法が分からない。

 二人の間にあるぎこちない距離感に寂寥(せきりょう)を感じつつ、アルフレートはあと一歩を踏み出せずにいた。

「殿下、どうかなさいましたか?」

 ユリウスに声をかけられて、はっと物思いに沈んだ意識がもどる。

「いや……何でもない」

 歯切れ悪く答えを返して、アルフレートは廊下に出る。

 謁見開始予定の十時は、あと数分のところまで迫っていた。

 悩みはいったん置いて、今は目の前のことに集中しなければならない。それが彼の責務でもあるのだ。

 いつものようにユリウスを伴い、アルフレートは謁見の間へと向かった。

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