疫病神・トキシカント
「蘇生したか、1度心臓が止まった時は焦ったが、この程度で死にはせん。起きろマヒロ」
(誰かの声がする、この声は…疫病神?)
「お前は私の心臓を肺から取り込んだからな。
私の免疫細胞はマグマ程度の熱には耐性がある」
燃えたぎるマグマの中マヒロの頭に、疫病神の声が流れてくる。
マヒロは目をあける。
そこは、疫病神と戦ったあの洞だった。
目の前に、疫病神・トキシカントが頬杖をついて座っていた。
「疫病神!!なんでここに」
「そう騒ぐな。ここは私の精神世界というやつかな。
実体のお前はマグマの海の底で眠ってるさ。
安心しろ私はとうに死んでいる。
だがさすがに腹が立ってな。
お前が取り込んだ細胞に魂の残滓をのせて、こうして話をさせてもらってる」
「ふざけるな!貴様のせいで!」
「まあ、そう怒るのも無理はない。今まで多くの人間の命を奪ったのは事実だからな。
お前の国の王の命令とはいえ」
「…王の命令?」
「ああ、正確には契約、いや逆らえない呪いというやつか。
…もう1000年も前の話だ。
人口統制、都合の悪い要人の暗殺、国の統率や忠誠心をあおるための自作自演。
そんなもののために、貴様が忠誠を誓った王とやらは、散々私の能力を利用してきた。
詳しいことは、あとで私の記憶をたどれば分かるだろう。
お前と戦っていたときに嫌な記憶を思い出してな
…いい加減つかれたんで死ぬことにしたんだが、
最後にあの腐った王にいいようにされてたことがどうしても許せなくてな」
「お前のいうことを信じろとでもいうのか?」
「信じるも信じないも貴様の好きにしろ。強制する気はない」
マヒロの頭に、冷酷な瞳で自身を見下ろすアシナ国王の顔が浮かんだ。
「お前は私の心臓を取り込んだ。2、3年もすれば私の全ての能力を完璧に使いこなせるだろう。
そうすれば、『死後の結界』とやらも壊し外に出られる」
「…お前は俺に何を望むんだ」
マヒロはトキシカントを睨み返した。
「…別に何も。
お前と私で憎む対象が一致しただけだ。
私の魂の残滓もいずれ消えれば、私は地獄に堕ちることになるからな、
どうでもいいといえば、どうでもいい。
お前は英雄なんだろう?私のような悪を払いたきゃ払えばいい。
お前の使命は何だ?」
「俺の使命は…」
マヒロはじっと地面を見つめる。
頭にはノーマン国王やブラッドの邪悪な笑み、そしてクロエの純真な笑顔が浮かんでいた。
怒りに震えた瞳でトキシカントを見つめ返し。
「この国の腐った病を根絶やしにすることだ!」
トキシカントはその言葉に微笑みを返した。