野生の勘、戦闘開始
殺意を剥き出しに睨みつけるテディの横から、鼻息を荒くした大鹿の魔獣・ディアボロディアーがマヒロの方に向かって歩みよった。
拘束されたまま地面にしゃがみこむマヒロの目の前で立ち止まると、ヨダレをたらしながら低い唸り声をあげる。
「そうかディアー、空腹が限界か。
そいつへのとどめはお前に譲ろう。肉の欠片は残しておけよ」
テディの許可を得たディアーは、クンクンとマヒロの匂いを嗅ぐ。
「腹減ってるのは分かるが、俺はあまり美味くないと思うぞ」
マヒロが落ち着いた様子で呟いた直後、ディアーは口を縦に大きく広げ、マヒロの上半身を覆い隠すように噛み付いた。
「団長!」
「…威勢だけは良かったがあっけない」
マヒロの最期を見届け、テディは新しく葉巻を口に加えようとしたが、直後異変に気がつきその手を止めた。
マヒロの上半身は、ディアーの口の中に収まっていた。
しかし、その牙はなぜかマヒロの身体に食い込む手前で止まっている。
体長5メートルはある巨大なディアーの身体から、大量の冷や汗が吹き出ていた。
その身体は恐怖で震えている。
「どうした?俺を食うんじゃなかったのか」
ディアーは閉じかけていた口を開き、マヒロの元から後ずさりをはじめた。
「おい、ディアー!どうした!」
テディのかける言葉に対してディアーはひたすら身体を震わすだけだった。
すでに戦意は完全に喪失していた。
「少し殺気を放ってみたんだが、さすが野生の勘で察したか。
俺を食ったら腹を下すどころじゃ済まないってことを」
疫病神は病の王と呼ばれる存在だ。
その心臓を取り込んだマヒロは、その体内で、死に至る有毒な細菌を自在に生み出すことができる。
ディアーは、野生の勘で察したのだ。
この人間の血液を少しでも口に入れたら、死に至ることを。
「てめえ…ただの人間じゃねえな」
尋ねるテディにマヒロは頬を緩めながら答える。
「ただの疫病神さ」
マヒロは両腕に力を込めると、上半身を拘束していた頑強な蔦が容易くちぎれ弾け飛んだ。
「戦闘開始といこう」
マヒロはにやりと微笑んだ。
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