B級魔獣・ギャングウルフの群れ
「団長はその子の手当てを」
イチカはそう言うと腰に下げた刀を抜いた。
「ああ、任せた」
マヒロは子鹿の脚に手を当てる。
骨細胞が修復し、折れたはずの脚がみるみる治っていく。
直後四方からギャングウルフたちが唸り声をあげ一斉に飛びかかってきた。
『十字剣技・旋風』
イチカは円を描くように刀を抜いた。
直後周囲に斬撃が円陣を作るように巻き上がり、ギャングウルフ達の身体を切りつけた。
ウルフたちは叫び声をあげその場に倒れ込んだ。
「大した剣技だな」
マヒロは感嘆の声を上げる。
狼たちが気を失ったのを確認し、子鹿を安全な森の方に逃がした。
イチカは子鹿が遠くに消えていくのを見送り安堵する。
「獣とはいえ、無益な殺生はしたくないんですが」
イチカは刀をおさめると倒れた狼の元に近づき、両手を合わせる。
「これって…」
異変に気づいたのはその直後だった。
倒れた狼は意識を失っているだけでまだ息をしていた。
安堵したものの、斬撃で与えたはずの傷が既に塞がっていることに気がつき首を傾げる。
そして、狼の真っ白い全身を紫色の血管が不気味な模様のように走っていた。
(これがギャングウルフ?B級の魔獣とはいえ、これほどの耐久性と治癒力があるなんて)
イチカが治りかけの狼の傷口に触れようとした瞬間、狼がその瞳をあけ突然イチカに襲い掛かった。
「イチカ!伏せろ!」
その声と同時に、イチカの後ろから素早くマヒロがウルフに飛び蹴りを食らわせる。
轟音と共に、ギャングウルフは数メートル後方の木に衝突した。
衝撃で大木が折れ地面に倒れ激しい土煙をあげた。
「イチカ!噛まれてないか?」
「えっ、ええ!無事です!しかし何なんでしょう。B級の魔獣とは比べ物にならない強さ」
マヒロは周囲を見渡す。
いつの間にか残りのギャングウルフ達が起き上がり唸り声を上げていた。
皆傷口は塞がり、全身を紫の血管が覆っている。
マヒロはじっとウルフ達の身体を観察する。
「イチカ、攻撃を受けるな。こいつらの唾液からする細菌の匂い、狂犬病に似ている」
「狂犬病って、致死率100%のやつですよね。
でもここまで身体が強化されたりするものなのですか?それに傷も回復している」
「狂犬病は自然発生の細菌に由来するものだが、こいつらの感染している細菌は違う。
構造が人工的だ」
「人工的?」
『グラスロープ』
どこからか聞こえた低い声の後、突然2人の地面から蔦状の植物が生え身体を縛るように拘束した。
「これは地属性の魔術か?」
「どうやらこの狼達は俺たちを油断させるための兵隊だったらしい」
二人は身動きがとれないままその場に跪いた。
(魔術まで使える魔獣とは少々厄介だな)
マヒロはじっと周囲を取り囲む狼たちの群れを見回した後で、クンクンと鼻を鳴らした。
「いつまでも隠れてないで出てきたらどうだ」
直後、ズシン、ズシン、という地鳴りのような音と共に正面の木々を掻き分け巨大な熊のような魔獣が姿を現した。
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