現第一師団団長・人災のクロフォード
マヒロ達がアイスマグナの監視棟を経ってから2日後。
監視棟があった場所にはマヒロの邪気によってできた巨大な大穴が空いている。
『 アイスマグナ近辺にて黒い火球の目撃情報』
その報せを受け、現場には、王都から十字軍の兵が派遣されていた。
「…で、つまり突然巨大な隕石が落ちてきて監視棟を吹き飛ばしたと。そういうことですか?」
「…ああ」
アストンとバップは派遣されてきた十字軍の兵から治療を受けた後、目の前に座る黒縁眼鏡をかけた兵から事情聴取をうけていた。
その兵の背後に視線を向けると、船首に鷹のエンブレムがついた飛空艇が見える。
アシナ王国最強と呼ばれる「第一師団」専用の飛空艇だ。
バップとアストンは、ともに震えながら兵からの質問に答えていた。
「ふーん、、隕石ねー。まあいいや、うちの団長が納得してくれればいいんですけどね。
あの人超論理的な人だからなー」
団長、という響きにアストンは背中に強烈な寒気を覚えた。
眼鏡をかけた兵は億劫そうに、穴の方に向かって歩いていく。
「な、なあアストン。あの飛空艇って第一師団だよな?」
「ああ、そうだ」
二人はひそひそと小声で話す。
「てことは、あそこの団長って呼ばれた若い男って、あのクロフォードだよな?」
「ああ、史上最年少で第一師団の団長になった、王国の歴史上最強と呼ばれる剣士だ。
噂じゃ…あのマヒロより強いらしい。
てか、あんま喋らせんなよ。顎が死ぬほどいてえし、歯も折れて喋り連れえ」
「しかし、折れた顎まで回復魔術で治しちゃうなんて、さすがは第一師団の兵だよね。
一般兵がこのレベルとなると、団長クラスはどれだけ優秀なんだか」
二人の視線の先。
クロフォードは、巨大な穴の前でしゃがみ込み、拾った小石を地面に投げ入れると、表情を変えずにじっと穴を覗き込んでいた。
「あっ、あのー」
「…深さは一体何メートルだ。底がまるで見えない。
しかしこれほどの物体が衝突したとなるとなぜ周囲への被害が、」
「あの!クロフォード団長!」
独り言をつぶやいていたクロフォードは、兵の言葉に我に返る。
「ああ、すまない。考え事をしていた。で、あの二人は?」
「はい!やはり、巨大な隕石が落ちた、とのことです。
断片的に記憶を失ってはいるそうですが、間違いない、と」
「…そうか」
クロフォードは、そういうと二人の方に向かい歩きだす。
そして、二人の前で立ち止まると膝まづいて静かに言った。
「アストン一等兵。バップ二等兵。
まずは、この極寒の地での長きにわたる監視任務、ご苦労様でした。
心より御礼申し上げる」
深く頭を下げるクロフォードに、二人は顔を見合わせる。
『冷酷な生物兵器』
『人災のクロフォード』
それが、陰ながら囁かれるクロフォードの呼び名だ。
若くして、誰よりも王国に対して忠実な最強の兵士。
その忠誠心もさることながら、任務遂行のためなら敵兵や魔物を殺すことを一切躊躇わない冷酷さを持ち合わせていることは、十字軍の兵で知らぬ者はいない。
圧倒的な戦闘力から、人でありながら、「災害」として呼称されるほどの兵士は、王国の歴史上類を見ない。
恐怖の感情を抱いていた二人だったが、真摯に頭を下げるクロフォードの姿に安堵する。
(よく考えたら、こいつはあのマヒロ団長よりも年下の若造で、俺よりもはるかに後輩なんだ。
何びびってんだおれは)
「あ、ああ!まあ、それなりに大変な任務だったがな!
つっても、疫病神なんかとっくに死んでんだからよ。
監視棟もなくなったことだし、監視任務も終了だろ?」
アストンの言葉に、クロフォードは顎に手を当てて思案する。
「ええ、たしかにそうですね。
私も、存在しない疫病神の監視など無意味だと、これまでもブラッド将軍に進言してきました。
将軍もようやく意見を聞き入れてくれるようになり、今年で監視任務も終了する予定でした」
「そうだろ!もう俺たちもこんな場所いたくねえんだよ」
「お二人の気持ちは重々汲み取っています。
2日前、この場所で巨大な火球の目撃談があったと、ブラッド将軍の耳に入りました。
将軍は、恐怖に満ちた表情で我々第一師団に現地調査を命じたのです。
おそらくですが、ブラッド将軍はまだおそれているのでしょう。
疫病神、天音マヒロの復活を」
「復活?はっ!将軍ってのは肝が小さいんだな!あるわけねえだろ!」
「アストンさん。二つ質問があります」
クロフォードは、表情を変えずにアストンの目を見つめる。
その全てを見透かす氷のような視線に、アストンは全身に悪寒が走るのを感じた。
「イチカ=シオン。先日ここに配属された第三師団の女兵です。彼女はどこに?」
「し、知らねえよ。自室で寝てたみてえだから、隕石の巻き添えで跡形もなく消し飛んだんだろ」
「…わかりました。ではもう一つ。
…あなたは、天音マヒロの姿を目撃しましたか?」
「あっ?見てるわけねえだろ!」
クロフォードはアストンの目から一切視線を逸らさない。
アストンの心に、恐怖の感情が大きく膨らんでくるのを感じた。
(な、なんなんだ、こいつの威圧感は)
「…たしかに嘘はついていないですね。
大変な状況の中、聴取にお時間をさいていただきありがとうございます」
「ああ、別に構わねえよ。さっさと飛空艇のせて王都まで運んでくれ…」
アストンがそういい終わる直前だった。
突然、隣に座っていたバップの首がとんだのは。
(な、なんだ、、何が起きた)
アストンは正面に視線を戻す。
先ほどと表情を変えずに、クロフォードがじっとアストンの目を見据えていた。
クロフォードは腰に下げた、十字状の剣を収める束に手を添えている。
(こ、こいつが切ったのか?抜剣の瞬間も何も見えなかったぞ)
「お、、おい!てめえ、何しやがった!!」
「伝えたはずです。長きにわたる監視、ご苦労様でした、と」
「あっ!だから何だよ」
「…もう用済みってことだよ。ごみ共」
クロフォードが吐き捨てるようにいった冷たい言葉の直後、アストンの首が飛んだ。
「ブラッド将軍の命令だ。
疫病神の件がどうであれ、軍の面汚しである二人をついでに処分しろと。
せいせいした。
貴様らのような軍の規律を乱す輩が存在していること自体、ずっと我慢ならなかった」
クロフォードは、血の付いた刀をポケットから取り出した布できれいにぬぐい取った。
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