天音クロエについて
「イチカ。1つ聞きたいことがある」
「は、はい!何でしょうか?」
「俺の妹、天音クロエを知ってるか?3年前、第一師団の兵長を務めていた」
イチカは、悲しげな表情でうつむいた。
「もちろんです。私が入隊した第三師団で、お世話になりました」
「第三師団?」
「はい。団長の処刑の際、スタンフィールド将軍に抗議をし、軍規違反で拘留された後に降格させられたそうです。
第三師団で私のような新兵と同じ三等兵として雑用をこなしていました。
マヒロ団長がいなくなって、クロエさんが誰よりも辛かったはずなのに、本当に優しくて。
私にとっては誰よりも信頼できるお姉ちゃんみたいな人でした」
「そうか…」
マヒロは俯きながら呟いた。
大罪人の妹。
軍の性根の腐った人間や助けた民間人からも冷たい言葉をかけられているのを、イチカも耳にしていた。
軍による激しい拷問をうけた、という噂まで聞いたことがある。
「今どこにいるか知っているか?」
イチカはじっと地面をみつめながら、首を左右に降った。
「1年前、クロエさんは突然姿を消しました。
軍の命令で私たちも行方を探したんですが…最後にエビアスの港町での目撃情報が出て以降今どこにいるのかは、誰も分かりません」
「…そうか」
マヒロは立ち上がる。
「屋外は冷える。
君は病み上がりだから、戻って休むんだ。
近くに駐留している建物でもあるんだろ?」
「えっ、はい。団長はどこに?」
「まずはクロエの無事を確かめたい。
エビアスに行けば何か分かるかもしれないから、行ってみるよ。
あいつらへの復讐はそれからだ」
静かな怒りの炎をたたえるその瞳に、イチカは背筋に寒気を覚えた。
「イチカ…お前や罪のない兵たちは巻き込みたくはない。しばらく十字軍から離れていろ」
マヒロはそう言うと、イチカを残し歩き始めた。
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